第360話

 私はゆっくりとした時の中で、彼女の動きを追う。

 彼女は魔術ではなく限りなく魔法に近い魔術を使おうとしているのが手に取るように分かる。


「万物に干渉す」

 私は自然と手を動かしながら魔術式を高速で編み上げていく。


「な!?」


「破壊するは加速術式、踏破せしは天の後光」

 私が編み上げ作り上げた魔術魔方式が彼の加速半魔法を打ち砕く。

 それと同時に彼女の移動速度が目に見えて落ちるのが分かる。


「先ほどまで感じていた気配とは……力も性質も別物ではないか!?」

 驚愕の表情を見せている彼女を私は見つめながら……。


「それで、どのような用件でここまで来たのですか?エンハス」

 すでに目の前にいる男は私が知ってるロウトゥではなかった。

 魔術を使ったのだ、クラウス殿下にアリア、そしてレオナがいたのだ、とっくに彼は離脱している。

 この結界だって先ほどまのロウトゥの結界に似せているがまったくの別物。


「なるほど……せっかく残っていた結界を利用して再生させたのだが無駄に終わったようだな」

 ロウトゥの格好をしていたモノは、少しづつその姿形を変えていく。

 そして漆黒の瞳と漆黒の髪を持った私を成長させた美女にその姿を変化させた。


「何の為にここにいるですって?ようやく輪廻を元に戻せると思ったのに……希少な天啓を持つ因子を手に入れて育てたのに……貴女は私の従属神を殺してしまった。そればかりか、計画に必要な神核まで破壊してしまった。これがどれだけの大罪か理解しているのですか?親の言う事もまともに聞けない不良品は処分するのが親の愛情でしょう?偶然を装って苦しみの無いように処分しようとしたのに貴女には親の気持ちが分からないのですね」

 私は、エンハスの言葉を聴きながら溜息をついた。

 彼女は親と言うのがどう言ったモノなのか理解してないらしい。


「悪いがエンハス、私はアンタのオママゴトに付き合ってる気分じゃない」

 私の言葉にエンハスは怒りの形相を見せてきた。


「やはり人間の知識なんかを与えたのが間違いだったのね、だからだからだからこんな不良品が……これでは他の神々へ申し開きが立たない。なら処分して……」

 私は彼女が独白してる間に魔術式を組み上げてて


「万物に干渉す、破壊するは心象世界…踏破せしは空の刃」

 私が発動させた魔法が心象世界を粉々に砕く。

 先ほどまで歪んだ地平の心象世界は私の魔法により砕け散った。


「そんな、バカな!?人間程度が神の結界を砕く力を有しているだと?」

 一人独白していたエンハスは、自分の心象世界が砕かれた事を感じ取り乱していた。


「やはり、さすがはユニコーンの団長と言うところか?」

 飛ばした探索魔法ソナーでロウトゥの位置を確認しながら一人事を呟く。

 ロウトゥは、すでに船内には居ないばかりか船外に出ている。

 それもかなり遠い位置。

 さらにはまだ移動を続けており距離を稼いでいる。

 誰かが追ってるようだがおそらく追いつけない。

 ロウトゥの移動速度は、おそらく神衣化した私に匹敵する。

 つくづく化け物だなと思う。

 そして目的を遂げたら即、逃亡をするあたり場慣れしている。

 目の前で事実を認められない三下とは違う。


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