第358話

「そもそも、貴女は誰かを本当に守りたいと思っているのですか?レオナに見せられた光景、人に見せられた光景に共感してるだけに過ぎないのではないのですか?貴女はまだ作られたばかりの感情とその身に合わない知識によりそう思ってるだけではないのですか?

だからこそ、貴女には神衣化までした彼女や彼らの声が届かない」

 彼女は私が振り下ろした杖をその身にそのまま受けた。

鈍い骨が折れた音が感触が私の耳に手に残る。

それにより私の手は止まってしまう。


「どうしましたか?貴方は本当の意味では誰の命も奪ってはいない。

治療ができない身になってようやく理解しましたか?

その身がどれだけの痛みを他者に強いてきたのかを……貴方はその現実から目を背けて命を奪うかも知れない現実から目を背けて生きてきた。

だから貴方は、安易に治療を施す。

治療に従事していた人の仕事を奪っているという現実から目を背けて正しいと己を誤魔化し騙しそれを他人に押し付けた。

傲慢にも走り続けそして最後には自分の正義を他者へ押し付けようとしている。

そのどこに正義があると言うのですか?」


「うるさい……正義は人の数だけ存在するとお前は言った。なら私がどうしようとそれは正義ではないのですか?それに貴女だって私に自分の正義を押し付けてきてる!」


「そうですね。たしかにそうかも知れませんね。貴女が本当に自分の正義を持っているならですが……」


「どう言う事ですか?」

 血が砂の上に零れていく。


「言ったとおりです。貴方の正義は破綻している。自身より他人が大事だと思う正義、それは偽善に他ならない。自分を大事に出来ない者に他人を幸せになんて出来ない。何れ自分が死ぬ存在だからこそ、自らを大事にしないといけないのに、貴女は自身を切り捨てた。

その結果の成れの果てがこの世界だと言う事に何故気がつかないのですか?」


「何故気がつかない?そんなのは分かりきっている。私には未来が無い、だからこそ私を愛してくれたこの世界の為に、守る為に戦うことを決めたんだ。その決意は絶対に揺るがない。誰に認めてもらえなくても決して折れたりなんてしない」


「そうですか……やはり貴女は守護者としては失格なのかも知れませんね」


「守護者なんて肩書きも音素と言う肩書きもいらない。私は私の意志で戦っている!たしかに私は誰かの為に生きてるのかも知れない。だからこそ私は私であるために!」

 振り下ろされた剣閃を弾く。


「!?」

 そこでようやく彼女は驚愕の表情を見せた。


「そこまで分かっているのに、どうして自分を犠牲にして他者を救おうとしているのですか?」

 私は彼女に視線を向ける。

 彼女と私の視線が交差する。


「美しいと思ったんだ……」

 彼女は私の言葉に無言で返してきた。



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