第355話

「貴女は?」

 私の問いかけに彼女は眉間に皺を寄せながら言葉を紡いで来た。


「私が本来のユウティーシア・フォン・シュトロハイムよ。アウラストウルスが言っていたわよね?私が貴女を心配してると……」

 彼女はそう言いつつもその表情には、苦悶の色合いしか見つける事が出来ない。


「たしかに、貴女は運命に翻弄されながらも頑張ってきたわ。でもね、私には分かっていたの。何れこうなるとね……だからロウトゥと契約したの、白色魔宝石と私が本来受け継いでいた先史文明の魔方式を渡して貴女と邂逅しようとしたの」


「何の為に?」


「かつて古き時代の英雄であり勇者であり召喚された者であり殺戮者クサナギが作り出したモノ、だから何れこうなる事は分かっていたわ」


「それは、昔……夢で見た異世界から召喚されたクサナギが辿った道ですか?」


「そう、この世界はね輪廻を繰り返すシュトロハイム家……いいえ……クサナギ家が背負う業が生み出す本来の世界。ユウティーシア、貴女は気がついてないでしょうけどね、彼も貴女と同じ死人なのよ?」

 

「――――――!?」


「私達一族は、この世界を滅ぼした時から時の輪から外れたの。

だから、貴女は私達一族に興味を持った。

八百万の人柱であり輪廻を管理する神の人柱であり生と史の境界を守護するエンハスは私達に興味を持った。

そして、貴女はクサナギがその体から作り出したモノ。

だから、貴女はエンハスに見つかった。

おかしいと思わなかった?何故、この世界の外側に居た貴方をたかが八百万の一柱程度で貴女を捕まえる事が出来たのかを」


「一体、何の話をして……」

 彼女は私に向けて独白をしてくるが私にはその話の内容が理解できない。


「やはり、人の感情が乏しいと理解できないのかしら?そうじゃないわよね?だって本当は貴女は全てを理解しているのだから。全ての始まりを貴女に見せてあげる」

 彼女の言葉に私の意識は暗転した。 



――――――夢を見た。

 異世界から召喚された少年が世界を救う為に勇者に仕立てられた。

少年は幼かった。

彼を召喚した王や側近は傲慢だった。

少年は、何の力もない平凡な人間であった。


――――――夢を見た。

 少年は青年となっていた。

彼は、勇者として戦っていた。

魔物を亜人を殺して殺して殺して殺して殺して殺しつくしていた。

彼にはより所がなかった。

幼い頃に拉致された事、保護する者がいない事、そして勇者としての重責。

それらが全て、彼の心を蝕んだ。



――――――夢を見た。

 青年は一人の女性と恋をした。

その女性を守る為に、勇者は自国を裏切った。

だが青年は知らなかった。

どれだけ人間がどれだけ人々がどれだけ民衆が愚鈍で愚かだったかを。


――――――夢を見た。

 世界は残酷であった。

結局、勇者と言うのは戦争の道具にしか過ぎなかった。

判断が出来なかった。

それは幼い頃から戦いの道具にのみ使われてたいたからだ。

利用され利用されて利用し尽された。


――――――最後に夢を見た。

 青年の手には何も残らなかった。

守ろうとした者に裏切られ愛した女性を殺された。

結局は全てを失い彼は人に絶望した。

世界には、世界と勇者しか存在しておらず彼は世界を手に入れた。



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