第356話
「そう、全ては勇者召喚と言う犠牲の上に成り立つモノ。自国の民を犠牲にしないと言う大儀を掲げた偽善が作り出したモノに過ぎない。これが全ての始まりであり全ての基点となるもの。ここから全てが始まった。そしてこれを作り上げた者はもうどこの次元にも存在しない」
気がつけば私は、先ほどまでの砂漠に居た。
「人の夢、希望、絶望、愛憎それらは思想を思いから一つの奇跡を生み出す。
だけど、決して誰も幸福になることはないの。
何故だか分かる?そこには必ず等価交換が存在するのだから。
無から有が有から無が作り出せないように決してその奇跡は奇跡には成り得ない。
掲げられた理想は理想にしか過ぎないのだから、だから勇者クサナギユウヤは理想に囚われた。
壊した者、壊れた者を取り戻す為に、たった一つ手に入れた世界(ワールド)再生(リバース)を使い人を試している」
そこで私の前に存在する彼女は一度口を言葉を止めた。
「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム。貴女の今の姿は自分を生贄にして他者の思いや記憶も犠牲にして自らが信じる正義のみを行おうとしている。その姿はかつての始まりの男であったクサナギとどう違うの?」
「……」
「分からない訳が無いわよね?消滅するからいいですって?誰の記憶にも残らないからいいですって?それで本当に誰かが救われると思うの?それで本当に誰かを守れると思うの?全てが終わればそこには従来どおりの世界が広がるから問題ない?違うわね、そこには貴女は存在しない。本来のユウティーシア・フォン・シュトロハイムもそこには存在しない」
「存在しない?」
「そう、存在しないわ。だって時の輪から外れているからこそ、私達は存在しているのだから。
消滅すれば私達は存在しない事になる。
そもそも音素はなんだと思う?万物の元素?人と心を通わせるモノ?違うわね。
音素は守護者の別名なの、世界が歪んだ時に生まれる物。世界が壊れた時に全ての守護する者。
クサナギが完成した時、クサナギの元に現れるように貴女は生まれた。対極に位置する存在にしか過ぎない。
貴女が消滅すれば、クサナギも死ぬわ、そしてそれを世界は望んでいる。
そして死ぬ事が出来なくなったクサナギもそれを望んでいる。
誰もが望んで誰もが求め、誰もが渇望する……でも、そんな物にどれだけの価値があると思うの?」
彼女は何もない空を見上げて誰かに語るように話続ける。
「結局ね、私には彼を救う事は出来なかった。
壊れて壊れてそれでも戦い続けた彼を……。
私達の世界を救う為に、違うわ。偽善の為の犠牲にして彼を傷つけたのに全てを失わせたのに私は彼を守れなかった。
だから、私はずっと待ち望んでいた。
彼を止めれる者を、この狂った輪廻を断ち切る者を、本来の守護者としての役割を持つにたる者が生まれるのを。
分かっているわ、これは全て私の我が侭だと言う事も。
でも、貴女には知っておいてほしいの。
たしかに貴女が死ねば全ての存在が消えて貴女に関するモノは消えるわ。
でも、そこにある者は何かを犠牲にして作られたという事実だけ。
誰かの思想を犠牲にして作られた世界だけ。
貴女には貴女自身をもっと大事にしてもらいたい。
何れ消滅する運命だったとしても、だからこそ愛する人の感情が理解できるからこそ、自分自身を大事にしてほしい。
私が守れなかった彼を救ってほしい」
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