第354話
「とんだ聖女だ、何が聖女ユウティーシアだ。今の貴様は自分自身の事すら満足に理解せずに他者を理解してると思い込んでる愚か者に過ぎん!」
肉薄してくる彼の剣閃を防ぎ弾く。
「私が何を理解してないと言うのですか?」
彼は私が他者を本当の意味で理解してないと告げてきた。
彼が放つ斬撃の強さは益々強くなっていく。
「そのような事すら理解出来てないのか?」
杖が手から弾かれ私の右腕が切り飛ばされるがすぐに杖は私の元へ戻ってきて左手の中に納まり追撃してきた彼の剣を弾くと同時に右腕は一瞬で再生される。
理解してないと彼はそう言った。
わたしは彼の攻撃を弾きながら考える。
そして思い至る。
「それなら問題ありません」
私の言葉に彼からの攻撃が止む。
「問題ないだと?」
「はい、私は何れ朽ちる身とロウトゥ……貴方は言いました。それは間違っていません。ですが、普通なら誰かが死ねばその記憶は他人の中に残り続けます。それが残された方を傷つける事は理解しています。
ですが、私だけは例外です。私の場合は、消滅をすれば全ての記憶や存在していたと言う証明全てが消滅します。つまり、誰の記憶にも残らない。だから……だれも傷つかないのです」
「そうか……」
ロウトゥは理解してくれたのか、右手に携えていたロングソードを下ろした。
「貴様は本当に何も理解していないのだな。道理で今の貴様からは虫唾が走るセリフばかり出てくるはずだ。記憶から消えるという事は、貴様は自身を思ってくれている人の思いすら踏みにじる行為だという事も理解してないのだな。なら見せてやろう。他者を守るために己を犠牲にした者の末路を!」
私の見てる前で彼は豹変し一つの石を取り出してくる。
それは私が見たことがある物だった。
でも、あれは私がユークリッド達のために置いてきた物……。
彼は私の前で魔術式を組み上げ白色魔宝石の力を使い魔術を超える魔法を発動させた。
「これが、先史国家時代に失われた心象魔法。亡者(カーズト)の理想郷(アヴァロン)だ」
周囲の景色が一遍し辺りは砂埃舞う砂漠になる。
その場には、ロウトゥの姿はなく私以外の姿を見ることはない。
手にした杖を持ちながら周囲を見渡すが何も変わらぬ風景が続くばかりで、こちらの出方を伺ってるとも思えない。
「ユウティーシア・フォン・シュトロハイム」
声がした方へ視線を向けるとそこには、私と同じ格好をしたユウティーシア・フォン・シュトロハイムが居た。
見た目はまるで同じに見える。
ただ、髪の色が白銀で眼の瞳がルビーのように赤い。
まるで、お母様にそっくりだった。
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