第318話


「どうかしたのか?」

 夢をみたまま博士に声をかけられたのは初めてだった。

 僕は何でもないと信号を送る。

 しばらくすると……。


「そうか、ようやく感情をもったのだな。博士が僕に語りかけてきた、博士は何を言ってるんだろう?分からない。わからない」


 そうしてると僕の体は夢の中で変化していった。

 何もない丸い白いボールのような塊は、あっというまに有機生命体の形に変化していく。


「なるほど、どうやらお前に干渉してきた者がいるようだな」

 博士と僕は黒髪の少女が息を引き取った様子を見ている。


「博士、どうしてあの人達は目から水を流してるの?」


「あれは水ではない、涙と言う物だ。嬉しいとき、悲しいとき、感情が高ぶった時、生物は必ずといいほど感情の発露が必要となる。人間はそれを涙という形で解消してるのだよ」


「良く分からない。だって人間って有機生命体だよね?だったらいっぱいいるよ?どれか活動を停止してもいっぱい増えるから大丈夫だよ?」


「命はどの生物にも一つしか存在していない。誰もが平等に一つだけしかもっていない。どれも一つとして同じ物は存在しない」


「分からない、どうして有機生命体はそんな無駄な事をしてるの?」

 僕の質問に博士は始めて微笑んだと思う。


「本当に分からないのかな?その答え自体がすでに答えだというのに理解してないのか?」

 博士は僕に問いただしてきた。でも僕には思い当たるフシなんてない。

 でも博士はまた僕に語ってきた。


「多くの旅をして、もう理解したのだろう?」

 僕は曖昧な夢の中で見てきた旅を思いだす。たしかにいろんな国やたくさんの人と出会ってきた。


「人に優しくすると言う本当の意味を」

 やさしくするという意味、無作為にするものじゃない。でも困ってる人がいて助けて欲しい人がいて助けたいと願う気持ちがあればそれでいいと思う。


「思いやりを持つと言う本当の意味を」

 思いやり……その言葉の意味を思い出す。無意識のうちに洋服や食料を渡していたことは思いやりなのだろうか?でも喜んでくれた。助けてありがとうと言ってくれる人がいた。


「人の痛みを理解する本当の意味を自らの身で感じた事」

 人に恨まれた事だってあった。憎まれた事だってあった。僕が思慮が浅い事でたくさんの人に迷惑を書けた事もあった。そして僕の仲間だったレオナに刺されて体より心が痛かった。張り裂けるくらい痛かった。これが痛み?誰かを傷つけた痛み?とてもとても痛い。


「人と共に歩む楽しさをと言う本当の意味を」

 城塞都市ルゼンドで僕が夜祭で感じた気持ち、それはきっと初めて楽しいと感じた感情だったんだろう。


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