第317話
「8000人ほどかと……」
イスカの言葉に俺は驚いた。俺ですらそれだけの人数を治療を施すことは不可能だ。途中で魔力が尽きてしまう。それだけの魔力をユウティーシアが有しているならば転移魔法は使えないかもしれない。
転移魔法は術者より高い魔力を持つ者には効果がない。念のためにユウティーシアの魔力を探るが彼女にはまったく魔力が存在していなかった。
俺にはその魔力が存在してないと言う現象がとても恐ろしく感じられた。これではまるでユウティーシアは世界から拒絶されているようではないかと思えてならない。
だから……。
「分かった。あとは任せた」
俺はイスカにそれだけ告げるとユウティーシアを抱きかかえてリースノット王国のシュトロハイム家に転移した。
―――ユウティーシアを抱いた後、咄嗟にシュトロハイム家に転移した理由。それは―――
シュトロハイム公爵邸に入り変わり果てた姿のユウティーシアを、近づいてきた彼女の両親に見せる。すると母親であるエレンシアがユウティーシアを見て涙を流し始めた。
―――それはユウティーシアが、もう助からないと事実を、俺や彼女の両親がユウティーシアより与えられた魔力で無意識の内に感じとってしまったからなのだろう。
「博士、おはようございます」
僕はいつものように博士に語りかける。
「ああ、おはよう」
博士は寂しそうな表情で僕を見てきた。
「言語と知識は問題ないようだが感情が生まれないか」
博士は感情と言う研究をずっとしてるらしい。でも僕には何のための研究か分からない。だって僕は研究のために作られたモノだから。
そんな日が毎日毎日続き、
――――――ある日を境に夢を見た。
たくさんの知らない人に感謝される夢だった。
よく分からないけど、皆が僕を褒めてくれる。
でも何で褒めてくれるか分からない。
だって壊れた部分を直してるだけなのに。
――――――夢を見た。
ある特定の因子の繋がりを持つ人を助ける。
それは親子と言う存在らしい。
良く分からない。
有機細胞の数が少ない方を助けるとどうしていつもより感謝されるのだろう?
――――――夢を見た。
必死に自分の領域を守ろうとしてる人たちがいた。
その人は自分が侵略をしてる人と同じことをしてる事を理解してない。
その人達を作ったのは不完全な有機生命体だから。
作られた人も不完全な存在なんだろう。
――――――夢を見た。
自分達が消してしまった大陸を、友人を仲間を助けようとしてた人がいた。
それは人が犯してはいけない領域なのに踏み込もうとしてた。
何人もの有機生命体が殺されていた。
――――――夢を見た。
一人の少年が心を壊しながら世界を救う
誰もが賞賛し誰もが否定をした
少年は青年となり一つの有機生命体と出会う
――――――夢を見た。
一生懸命生きた人達。
それは一瞬の瞬きの出来事。
それは僕や博士が生きてきた時間からすれば一瞬。
でも輝いていた。
とても綺麗だった。
――――――夢を見た。
一人の黒髪の有機生命体が何人のも人に囲まれながら息を引き取っていた。
何故かそれを見て何かが痛んだ。
僕はそれが何なのか分からない。
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