第313話

 それから一ヶ月が経ったある日、使節団として海洋国家ルグニカの簒奪レースに参列していたハデス公爵より娘がレースに参加していたと手紙が届く。

 娘が姿を消してから碌に食事も喉が通らない妻のエレンシアに、娘のユウティーシアが海洋国家ルグニカに居ると告げると妻はすぐにユウティーシアを迎えにいこうと言い出した。

 ユウティーシアの力は、国防力に直結する。国家の運営をしている王家や公爵家にとって看破出来ない事であった。すぐに海洋国家ルグニカへ私達が入国する旨をしたためた書簡を送り返事を待った。そして帰ってきた答えは、ユウティーシアは教会に浚われたと言う答えであった。


 そして、それと同じくしてハデス公爵家より娘の足跡を調べた結果が書かれた書簡が届く。手紙には、奴隷を解放し腐敗した王家の代わりに分別のある者を据えたと書かれていた。さらには労働環境の改善や保険制度、病院の設立、学校の設立と分野は多岐に渡っており、娘に与えた知識だけでは到底ありえない物ばかりであった。

 全てのシステムが高度に洗練されていて、まるで百年以上の歳月をかけて改善された社会システムを思わせた。それを見て私は、娘が私達の知らない未知の知識を知ってると理解したがどこでその知識を得たのかは調べたが発見する事は出来なかった。 


―――神代の知識を持つ女子が生まれた時、世界は大いなる災厄に見舞われると同時に転換期を迎えるであろう。その者はとても幼く弱く傷つきやすく誰よりも純真である。その子供には人を愛する気持ちと本当の強さを与えてほしい―――


 ふと私は、亡き父より聞かされていた事を思い出した。そして思い至った。シュトロハイム家に脈々と受け継がれていた伝承、それは娘のユウティーシアの事を指していたのではないのかと。


 妻のエレンシアにその事を話す事にした。本来ならば当主のみが受け継ぐ伝承であったがもし本当ならば……それを聞いた妻は私と自分を責めた。

 それはそうだ。私は娘を愛してはいたが、貴族としてユウティーシアが生まれてからとずっと、娘が王妃として立派に成長できるようにと距離をとっていた。特には辛く当たったりもした。ただ娘はその事に対して文句も何も言わずに受けれていた。私達はそれを当然だと思ってしまっていた。


 それが本当は違っていて、私達に絶望していただけだとしたら?見限っていたとしたら?そこまで飛躍して考えてしまったが強ち間違いでもない気がした。


 そしてある日、クラウス殿下が娘を抱いてシュトロハイム公爵家に訪れた。出迎えた私と妻エレンシアは娘の変わり果てた姿を見て言葉を失った。


「ティア?」

 妻が震えながら娘の頬に手を当てながら、娘の名前を呼んだ。

 だが娘はまったく反応を示さなかった。

 娘の表情から死期を悟ったのだろう、エレンシアはその場に泣き崩れた。



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