第314話

 初めて、ユウティーシアと言う少女に会ったのはまだ彼女が幼い頃だった。その頃の俺は、魔力量もまったく無く自分に自身が持てなくて虚勢ばかり張って生きていた。

 そして初めて、生き物が死ぬと言う時に自分が何も出来ない事に絶望して悲観してた時、少女が現れた。

 少女は、感情を持たない瞳で俺を見てきた。

 そして俺に力を与えてくれた。

 それは強い力だった。

 今まで、俺を魔力がない無能者と呼んでいた人が手のひらを返すように王位継承権を持つ兄弟達から離れていく。気がつけば俺の魔力量は、王国内でも1番になっていた。


 賢王とも呼ばれていた父上、リースノット王国グルガード国王陛下よりもはるかに高みに達してしまっていた。

 同期だけではなく近隣諸国ですら俺の魔力量を超える者はいなかった。天狗になっていたのだろう。一人で国境線沿いで魔術の修練をしていた時、戦いの気配を感じた。

 気になり移動してみると、青い髪をした少女が賊の凶刃により刺されていた場面を目撃した。


 俺はすぐに賊を追い払い少女を保護しハデス公爵家へと届けた。

その子が、俺の婚約者であるユウティーシアを婚約者の座から引き摺り下ろす人間だとは考えもせず。


 婚約発表の前に、ユウティーシアに顔合わせをする機会が巡ってきた。俺が見た少女は庭園で会った時よりもはるかに美しく成長を遂げていた。

 ただ、一つ気になった事があった。

 ユウティーシアの瞳には何の感情も篭ってない気がするのだ。

 与えられて役割だけを漫然とこなす役者、そんな印象を受けた。

 だけど俺は気が付かなかった。彼女がユウティーシアが何を望んでいるのかを……。


そして運命の日、夜会場からユウティーシアは姿を消した。それを行ったのはアリス皇女殿下であった。


「ユウティーシアに何を吹き込んだ!

 俺は怒りのあまりアリス皇女殿下に詰め寄った。アリス皇女殿下は自国の軍まで連れて国境線沿いに配備してこちらに圧力をかけてきたのだ。到底、許されるべき事ではない。


「ち、違いますわ。あの子は……」

 俺に問いとめられたのが以外だったのだろう。リースノット王国は弱小国家だからな、だが俺やシュトロハイム卿などの特級魔法師が2名もいて白色魔宝石の粉を含んだ飲料により国民のほとんどが初級でも魔術を使えるようになっている。戦争をしても一方的に攻められることはない。だが……


「ユウティーシア令嬢は、最初からクラウス殿下との結婚を望んではいないようでした」

 アリス皇女殿下は、よくよく俺の怒りを買うのが得意なようだ。


「失礼ですが、クラウス殿下はユウティーシア令嬢が婚姻をきちんと了承してるのか確認されたのですか?私は多くの方々を見てきたから分かります。彼女は、ユウティーシア令嬢は自分の幸せを願ってはいませんでした。誰かに強制されたのではありませんか?」

 そんなことはない。いつもユウティーシアは俺に微笑んでくれたではないか?それが全てだろう。それに貴族の結婚は半分義務のようなものだ。だから……だからなんだ?それではアリス皇女殿下が言ってる無理矢理結婚させられると言う言葉を肯定するようなものではないか?


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