第289話

 衛星都市ハントは、ヘルバルド国とエルベスカ王国の国境線を跨って存在しており山の中に作られた天然の要塞都市である。産業は高山ゆえに農作物は育ちにくく、主に岩塩発掘や錫など鉱物資源の採掘により経済を成り立たせていた。

 人口は2万人程で衛星都市の基準である1万人を大きく上回っているとアプリコット先生からは教えられていた。


 俺たち一行は、疫病が発生してるから助けてほしいと請われた事もあり、あと2日はかかると言われていた距離をわずか3時間で踏破したのだった。

 もちろん身体強化魔術を馬と人にかけるという暴挙を行ったのは言うまでもない。


「聖女様、到着致しました」

 俺に馬車の外から語りかけてきたのは衛星都市ハントの自治領主であるズールの部下であるイスカと言う女戦士であった。


「ええ、ありがとうございます」

 馬車の側面の窓から衛星都市ハントの光景を見ようとしたが10メートル近い城壁により中を見渡す事ができない。


「ずいぶん大きな城壁なんですね?」

 俺は馬車の中からイスカに語りかけると


「はい、町一番の長老の話によると神代時代に作られた遺跡を利用して作った都市らしいです」

 俺は彼女の話を聞きながら壁をよく見ると壁はレンガ作りではない。見たこともない材質で作られているようであった。俺とイスカが話してると手続きをしていたイスカの部下が戻ってきて


「イスカ隊長、カイシン・クサナギと名乗る女性が現れて病に効く薬を配っているようです。何でも教会枢機卿から指名された聖女らしく治癒魔法も使い怪我の治療も行ってるそうです」


「クサナギ殿……」

 レオナが心配そうな顔で見てくるが……


「えっと、どうしましょうか?」

 無料で治療してくれてるなら俺いなくてもいいんじゃね?任せておけば、隣のルフンダルク王国へ行きけるし、無理に関わる必要もないだろ。

 それにしてもカイシン・クサナギって何だよ。漢字で書くと改心・草薙だぞ?俺、心を改める必要があるほど酷い事してきたつもりないんだけど、ヒドイナー。


「それは本当に、聖女クサナギ様なのですか!」

 レオナがとても怒ってるように見えるけど、別に誰が治療してもいいと思うんだよね。むしろ俺と聖女変わってくれ!とまである。


「話を聞いた限りですと、領主様もカイシン・クサナギ様を聖女として認めてるようです。枢機卿様と法皇様の手紙もあるから間違いないと判断されたと……」


「法皇?それはアリア様ですか?」

 レオナはずいぶんと食い付きがいいな。もうその聖女に任せておけばいいじゃん。俺、あんまり働きたくないし……。今月の給料まだもらってないし、ずっと持ち出し状態だし……。


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