第229話

俺の態度にイシスは納得出来ないようであった。まあ目の前に奇跡を起こす人間がいるのだ、その人間に奇跡は起きませんと否定されれば納得しないだろう。


「ネクロ様、ご自身がリメイラール神様よりどう思われてるかをご理解してますね?」


「どういうこと?ネクロ、何かをしているの?」


イシスはようやく俺が何を言いたいのか薄々理解し始めたようだ。


「はやく治せ!」


俺は彼の態度に微笑みで返した。そしてアイテムボックスから一塊ほどある鉄の塊を取り出す。


「私にはリメイラール神様から頂いた力があります」


二人の見てる前で鉄の塊を素手で握りつぶしていく。見る見る圧縮されていく鉄の塊を見て侯爵であるネクロはその様子を唖然としたまま見ておりイシスは起きてる現象を理解出来なかったのかえ?え?と呟いてるだけだ。


「別に脅してるわけではありません。ですが外にいらっしゃる方々に迷惑をかけたくはありませんから簡単にご説明させて頂きました」


ミトコンドリアに命じて強化した俺の聴力が普段とは違う鉄が擦れ合う音を察知していた。おそらくこのネクロの護衛か何かなのだろう。何のための者かは説明するまでもないと思う。


「それでは、お引取り頂けますか?まだ患者の方が待っていらっしゃいますので」


俺の言葉に侯爵ネクロがどうすればいいのか考えていたが決心がついたのだろう。その瞳には暗い感情が浮かんでいる。


「レオナ、出番です」


「是!」


それだけレオナはその場から消えた。そう文字通り消えたのだ。


「もういい。力尽でも治療してもらうぞ!」


俺の前で侯爵ネクロを支えていた男性が何らかの魔道具を使ったようだったが、俺には何をしたのかが分からない。ただ、ようやく事態の深刻さに気がついた母親であるイリスが俺とネクロを交互に見ていた。


「ば、ばかなどういうことだ?何故だれも入ってこない?」


「さて、どういうことでしょうか?何かされようとしていたのですか?」


返答を返しながら俺は椅子に座ったまま、先ほどから立ったまま威圧してきている侯爵ネクロの目を見る。


「クサナギ殿、お待たせしました」


テントに入ってきたのはレオナであった。レオナは手にいくつものベルトをもっている。それらを侯爵ネクロの足元に投げるとテントの入り口を塞ぐようにして立ち止まった。


「全部で21個あります。弱すぎて話しになりませんでした」


「そうですか。ご苦労さまでした。」


俺はレオナに労いの言葉をかけるが侯爵ネクロは自身の足元に投げられた剣を支えるためのベルトを見てようやく得心がいったのか


「ど、どういうことだ?この短時間でB級クラスの冒険者と同格の我が配下の騎士21人がたった一人の女騎士にやられたというのか?」

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