第76話

そこには幼かった少女の面影はもう無かった。

少女は一つ殻を打ち破り大きく成長し一歩を踏み出した。


「それじゃ団長に承諾と報告しにいきましょう」


カリナは飲んでいた酒瓶をテーブルの上に置くと立ち上がった。

リビングから宿舎通路に繋がる扉はすでにユリアの手で開け放たれていた。


「お供します、カリナ様」


騎士団ユニコーンの団長ロウトゥの元へ並んで歩き出す。


それは、地獄から救われた少女と地獄から救いだした女騎士が

互いに国を守るために信念を持って小さいながらも一歩踏み出した瞬間でもあった。



それから年月は経過したある日、カリナは娘を出産した。


その娘はアリスと名づけられた。


ユリアは、お母様と出会った時の事から私が生まれた時までの事を全て話してくれた。

そして私にお母様が亡くなられた日の事を話してくれた。

いつもは配膳する役目だったユリアが、お母様の命で私に会いにきていてそれが出来なかった事でお母様は亡くなられたとユリアは話していた。

でもそれは違う。お母様の命を奪ったのは複合毒の可能性が高いとお父様は仰られた。


一つ一つは人体に有害ではないけど、組み合わされば劇薬となる毒薬。

それをお母様は毎日食べさせられていたのだ。


それを聞いたユリアと私はショックだった。

私はすぐに引き籠ってしまい何も口にする事ができなかった。


でもユリアは違った。

ユリアは自分が料理が出来てればお母様を救えたかも知れないと

自分自身を責めながらも今度こそ私を守るために毒を口にする事がないようにと

苦手な包丁で必死に料理を作った。


だからユリアは、貪欲に色々な料理に興味を示し学んでいるのだろう。


それは全て私を守るために……。


お母様を守れなかった償いを今度は私にするために……。


それはとても悲しい事なのに、とても辛い事なのに、きっとお母様が望んでいる結末とは違うのに。


それでも私はそれを口にする事は出来ない。


私もユリアに依存しているのだから、本当に浅ましくて身勝手で愚かな自分が嫌になる。


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