第70話

それでも、人の欲望には限りがない。法を破る者などいくらでもいるし実際ユリアを買った貴族もその一人だったそうだ。ユリアと同じ境遇の奴隷をその貴族は何人も抱えており虐待の光景をユリアは何度も何度も何度も何度も数年に渡り見せつけられたそうだ。そして……体が成熟したと思われたユリアは貴族の手慰みにされようとした所で一人の女性が指揮する黒服で統一された男達に助けられ保護されたそうだ。


その女性こそ、私のお母様らしい。


「副隊長、館の制圧は完了しました。全ての奴隷たちは保護し輸送の準備を開始しています……副隊長?」


「そう、ロウトゥにも報告しておいて。それと、この豚(きぞく)は私が始末しておくわ」


「はっ!それでこの娘も輸送しますか?」


「いいえ、この娘は心が閉ざされているようだから私がしばらく面倒を見るわ」


「了解しました。そのように団長には報告をしておきます」


「ええ、お願いね」


「や、やめるプ……わ、わしが誰か分かっているのかプ」


「ええ、分かっているわ。アンドレフ侯爵家当主ガンダタ」


「な、なら……わしがどれだけの力を持っているか分かってるはずでプ」


その時、初めてユリアは自分を買った貴族の名前を知ったらしい。


「そう、なら貴方も私達を知ってるわよね?」


男達に副隊長と呼ばれていた人物は、顔を覆っていた覆面を取りその顔を貴族に見せると顔を見た貴族の男の顔色が変わる。


「ぶひいいいいいいいい」


ユリアは突然、奇声をあげてガタガタ震えだす自分を買った人間を見た。奴隷を見下し虐待を加えていた尊大な男の姿そこにはすでに存在していなかった。


「き、貴様は……ユニコーンのカリナっ!何でお前みたいな大物がい……」


途中で男の言葉は途切れていたそうだ。男の頭と胴体がカリナと呼ばれた人物の手により切り離されたからだ。


胴体より切り離された貴族の頭が回転しながら宙を舞い部屋の中を鮮血に染め上げていく。頭を失った貴族の胴体はそのままベットから落ち切られた箇所から床に血をぶちまけた。


ユリアの網膜にその光景が一部始終、鮮烈に焼き付けられていき、男にカリナと呼ばれた女性はゆっくりとユリアに近づくと体につけられていた奴隷の証である腕輪と首輪を外すとゆっくりと語り掛けるように言葉を紡ぐ。


「もう大丈夫よ、今日からは私が貴女の家族だからねだから今日からは私と一緒に暮らしましょう」


そう語ったカリナの声はユリアはすぐには理解できなかったらしいけど月明りが照らした女性の顔だけははっきりと認識したらしい。

ユリアの瞳に映った女性の顔は、私と同じ青い髪をした美しい女性だった。



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