第71話
部屋の玄関のドアが開かれると一人の美女が部屋に足を踏み入れた。女は、青い髪を肩口で切りそろえている。女はリビングの床に散らばっている洋服の隙間を縫うように歩いて寝室のドアを開けた。部屋に備え付けられている机の上を見ると、仕事前に置いていった食事が手つかずのままに置かれていた事を見てため息をついた。
「食べないと元気がでないわよ?」
女は、ベットの上で足を抱えてる少女に声をかけた。少女は女の言葉を聞くと頭を左右にふった。どうやらいらないと言う事なのだろう。
「もう3日も何も食べてないじゃない」
女はベットの上で蹲ってる少女の目線に合わせて語り掛けた。少女の瞳の色には光はなく何も映していない。精神に外傷を負った人にはよくあることだ。女はため息をつくと少女を抱き寄せながら考える。連れてきた当初、最初に体を洗った時に少女の背中には無数の傷跡が存在していた。長年虐待を受けたのだろう、痛々しいほどだった。ユニコーンで保護した少女と一緒にいた奴隷たちの話によるとこの少女は、あの貴族の屋敷でも最古参の奴隷だったらしい。
少女が逃げる意思を持たないように貴族は目の前で少女の奴隷仲間を虐待し刃物で殺す現場を見せ続けたというのだ。本当に居た堪れない。でもそれが今のヴァルキリアスの実情だ。どんなにゴミを処理しても富がある連中は人としての道を踏み外す。そして目の前で貴族が殺された光景を見ても、少女は反応しなかった理由に女は納得した。
元々、この少女の目の前で貴族を殺したのは、彼女に恐怖を与えた者がもういないと言う事を教え前を向いて貰いたいと言う意味を持たせていたのだ。
「ねえ?」
唐突に声をかけられた女は少女へ視線を向ける。
「どうしたの?」
少女の表情は全てを諦めた者に共通する特有の感情が抜け落ちていた瞳をしていた。そんな人間が言う言葉の相場は決まっている。少女は殺してほしいと告げようとしているのだ。
わかってる、つらい現実を見せ付けられて逃げたいのは誰だって同じだ。でもそんなの誰も救われないし、彼女を知っていた人たちだって望まないだろう。自分が今からする事が偽善だと分かってる。
女は少女が口を開く前に人差し指で唇を抑えていた。
「そうね、今日は休みをとっちゃいましょう!貴女も女の子ですもの、お洋服を買いにいきましょう!」
女は少女に笑顔を見せながら語りかけた。
数時間後、少女が連れて来られたのは、王都ヴァルキリアスの中央市場にある服屋であった。人口100万人の大都市と言う事もあり購買客数も多い事から仕立て済みの洋服がところせましと並んでいる。そして女性服を主に扱ってるお店と言う事もあり女性客や子供連れの親子も多い。
そこで女は自分の服をギュッと掴まれた事に気がついた。
視線を下すと、12歳だと言うのにロクな食事も与えられなかった影響なのか身長も同年代よりも低い少女が何かを我慢するかのような表情をしていた。
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