第69話
私はどうしていいか迷った。きっとユリアが一生懸命作ってくれた物なのだろう。でも私はそれを食べる勇気がなかった。怖いのだ、死ぬのが……。私は、ユリアが差し出してきたスープ皿を、受け取る事を躊躇した。
「見ててくださいね。アリス様」
そう言いながら私が見てる前でユリアは、スプーンでひとすくいスープを飲んだ。
「大丈夫ですよ?そんなに怖がらなくても私はアリス様の味方です」
私は震える手でユリアからスプーンを受け取るとスープをゆっくりと口に含んだ。特に変わった味付けもないし見栄えだって良くない。でも……温かい……そう感じた。気が付けばユリアが差し出してくれたスープが入った御皿を全部飲み干していた。
「良かったです。これからは私も頑張って料理を覚えますね」
ユリアは笑顔で私にそう語った。
私は頷きながらお皿をユリアへ差し出し受け取ろうとしたユリアの指先を見て気が付いた。
「ユリア、あなた……それ……」
ユリアは私が差し出したお皿を受け取ると私に背を向けた。
そして照れるような仕草で私に向き直ると指先を隠したまま口を開いた。
「てへへ、少し切ってしまいました」
少しどころじゃない、チラッと見ただけでも指先が傷だらけだった。
私が知る限りユリアはお母様の傍付きのメイドだったけど、いつもお母様はユリアは、料理は苦手なのよねとよく話していた。ユリアが料理が苦手な理由はお母様は教えてくれなかったけど悲しそうな表情をしていたから私は敢えて聞かなかった。
でも逃亡してる時にユリアがポツリと語ってくれた。
それは逃亡で疲れてた私を励ます言葉だったかも知れないしユリア自信が自分自身を鼓舞する物だったのかも知れない。
でもユリアは私に語ってくれた。
ユリアは元々、ヴァルキリアス国と帝政国との間に位置する中立衛星都市に属する農村の生まれだった。中立衛星都市と言っても大国同士の思惑がある以上、代理戦争も起きやすく正常は不安定で治安も乱れている。決して住みやすいとは言い切れなかったそうだ。
そしてある日、ユリアが生まれ生活していた農村は山賊に蹂躙される。男は殺され女は犯され殺された。そして、まだ幼かったユリアと数人の子供達は奴隷にされたらしい。そして何日も何日も歩かされ与えられるのは粗末な食事と水だけでそんな日が何日も続き歩けなくなれば殴られ歩かされたと言う。なんてひどい世界なんだろう。そしてまだ6歳だったユリアにはどれほど過酷だったのだろう。
そして辿り着いた先で更なる地獄がユリアを待っていた。見目麗しい幼子だったユリアは、ヴァルキリアスの腐敗した貴族達に売られたのだった。ヴァルキリアスは、建国されてからは亜人種を含めて奴隷の売買どころか持ち込みですら禁止されているのに私は、ユリアの話を聞いて耳を疑った。誇り高いヴァルキりアスの貴族が何と言う事をしていたんだと……。
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