第一章 幕間 王都の警備隊

第63話

「退屈だな」


思わず思った事が口に出てしまう。

毎日毎日、代り映えのしないこの景色を見て私は溜息をついた。


「退屈な事は平和って事でいいんじゃないか?」


「んだよ。いたならいたって言えよ」


私の発言に幼少期からの腐れ縁であったスレインは「なんだとー!このー。ユークリッドのくせに生意気だぞー!」

とか言っている。


隣で抗議しているスレインとは同期で王都警備隊に入隊した。

入隊したというかさせられたと言った方がいいかもしれないが……。



そうあれは、まだ日差しが温かい時期だった。


侯爵家の長男であった俺、ユークリッド・フォン・アルドと伯爵家の次期当主予定だったスレイン・フォン・イエアスは

何不自由なく暮らしていた。

家令に頼めば、父上が許す限りどんな事だってできた。


賭け事も出来たし女だっていくらでも抱けた。

イラついた時に、市民に暴力を振るっても何も言われやしない。


問題が起きても父上が全てもみ消してくれた。

それは隣で今、俺のことを警棒を使って脇腹を押してくるこいつも同じだった。


俺とスレインは増長していた。

母上や父上はそんな俺に何も言わず弟ばかり可愛がっていた。


弟は、中級魔法師の中位クラスの魔力量をもってきて生まれた。

初級魔法師の上位の程度の魔力量の俺なんてどうでも良かったのだろう。


暴力沙汰で相手に怪我をさせた時も、家名に傷がつく事を恐れてもみ消していたと今なら分かる。


スレインだって俺と似たような物だ。

次期当主予定だったけど親は政治に夢中でまったく相手にされてなかったって聞いた。


だから似た者同士の俺達はいつもつるんで町で好き勝手に生きてた。

それは俺達が、リースノット王国の成人15歳の一か月前まで続いた。


俺達の好き勝手が許された最大の理由としては、この国の第一王子クラウス殿下の遊び相手を務めていたからだった。

これは王子と同年代だと喧嘩になるという配慮からだったが、その頃の俺とスレインにとっては毎日が苦痛だった。


クラウス殿下は一言で言えば正義感の強い子供だった。

早くして母君であった王妃様を病気で無くされた影響だったのか父親である国王陛下の影響だったのかは知らないが僕は皆を守れる正義の味方になりたいといつも夢のような事を語っていた。俺とスレインは、そんなクラウス殿下の言葉を聞きながら現実を見れないガキは良い身分だと思っていた。リースノット王国では王家の婚姻は血筋が重要視される。だが、他の貴族家では産まれ持った魔力量が人生を決める。クラウス殿下の魔力量は初級魔法師の下級であった。殿下の腹違いの兄弟は、中位魔法師の魔力量を持っている。

魔力至上主義の事世界において当然、王国を支える三公爵家以外の王国重鎮達は第一継承権を持つクラウス王子ではなく他の王子達を押していた。


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