第27話

「それは……」

 お父様の手前だからですか?と言う言葉を俺は飲み込んだ。何故かその質問はしたら不味い気がしたのだ。強いて言うなら悪手、男の関心を無くす言葉だと直感した。

 こいつは誰の指図で俺の足止めをしてる?他の国内の奴でお父様と仲が悪ければとっくに手を出してきてるし、他の貴族は俺の事を知ってるそぶりはなかった。

 なら、あの夜会場でメリットがある奴と言ったら両親と国王以外には、ヴァルキリアスの皇女か!そしてこの男の雰囲気から察するに暗部を仮定するのが早い。


「そうですか、ヴァルキリアス暗部の方も暇なのですね」

 初めて男の顔に動揺の色が見えた。ずっとおかしいと思っていた。本来なら、クラウス殿下が俺につけてくれていた近衛兵のように、他国の大国の皇女なら騎士風の男を何人か連れていてもおかしくはないと言うのに付き人である護衛を一人もつけず傍付きのメイド一人を伴ってるだけ、それだけで行動していた。


 俺も部屋を出たら扉の外で恐らく控えていて居ただろう近衛兵が誰もいなかった事をおかしいとは思っていたが、その違和感を警備隊と説明してきた男性がいたのでたいして気には留めなかったのだ。


「暗部とは、そうですか。いつから気が付いていたのですか?」


「いつからと申されましても、困りますわ。強いて言わせて頂けるのでしたら皇女殿下がこの夜会に来られた時でしょうか?」


「ハハハハハハハッ、そうでしたか。さすがは、リースノット王家を支える三大公爵家の御令嬢……いや、それ以上ですね」

 何が面白いのか。さっさと退いてほしいんだが、早くしないとお父様の手の者が来てしまう。せっかくクラウス殿下との婚約破棄の理由をアリス皇女殿下に擦り付ける事が出来て円満に解決して退出したと言うのに……。


「失礼、貴女の考えがあまりにも我々と似ていたものでね。ますます公爵令嬢らしからぬと思った次第ですよ」

 失礼な、俺はいつも自分自身第一主義者だ。お前たちみたいは堅気じゃない人間と一緒にしてほしくない。


「それではお尋ねします。貴女は、クラウス殿下を何とも思っていませんね?」


「そんな事、ありませんわ」

 俺は即答する。はい、大嫌いです!男と結婚なんてまっぴらごめんです!となんて言えるわけがない。言ったら俺が先ほど夜会場でアリス皇女殿下にお幸せにと言った言葉が嘘になってしまう。


「そう言う事にしておきましょう。それでは、逃亡の手助けを致しましょうか?」

 俺は目を見張った。そして動揺を悟られないように言葉を紡ぐ。


「今、貴方の仰られました言葉の意味が理解できませんでしたわ。私をシュトロハイム家公爵邸までエスコートして頂けると言う事ですの?」

 苦しいな……目の前の男はこちらの情報を知って話をしてきている。つまり俺が何を考えてるのが大体把握してる可能性がある。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る