第28話

「やれやれ、とことん人を疑う御嬢様ですね。本当に12歳ですか?それにしては、頭が切れすぎると思うのですがね」


「お褒めに預かり光栄ですわ、質問に答えて戴けませんか?」

 本当に時間が無くなってきた。焦る気持ちを抑えて俺は、相手に答えを促した。


「私が仕える主の願いを貴女は叶えてくれた。だから今度は私が貴女の願いを叶えましょう。貴女の境遇はこちらでもすでに調査済みです。貴族を嫌悪していて逃げ出したいが育ててくれた恩もあり逃げ出せずにいた。

 それが今回の私の主の起こした騒動のせいで帳消しに出来た。そう貴女は考えて逃亡を考えている、だから私は、貴女を逃亡させる。これは等価交換と言う物ですね」

 やはり、こちらの情報を調べ終わってる。なら、下手に取り繕う必要もないか……。


「やれやれ、危機感を抱かせてしまいましたか?」


「ええ……ですが、その提案に乗らせていただきたいと思いますわ」

 一人ではここから逃げ出す事はもう無理だろう。なら低い確率であってもこの男の提案に乗ったほうがいい。俺の答えに男は微笑んだように見えた。




 ヴァルキリアスの男が逃がしてくれると言った後の記憶がない。


 目を覚ませば目の前には男が座っていた。俺を夜会場に連れて行った男と同じ軍服を着ている。


 どうやら俺が寝ぼけてる間に抵当に受け答えをしていたようで目の前の男はかなり怒っているようだ。

さて、何を言ったのかそこが問題だな。


「申し訳ありません、寝ぼけて余計な事を言っていたようです。どのような事かもう一度説明して頂けませんか?」

 目が覚める前に男はたしか王都警備隊詰所に連れていくと言った気がする。王都警備隊に連れていかれれば、公爵家へ話が通る可能性がある。


 下手をすれば婚約を進められ、最悪には魔法石の作成の道具となる可能性がある。それは些か頂けない。さて、どうするかな?


「先ほど、王都警備隊詰め所に連れていくと仰られましたよね?」


「ああ、言ったがそれがどうした?」

 確認はとれた。 次にすることはこの男の説得になるわけだが、一度怒った人間と言うのは怒らせた人間が宥めようとするとさらに怒る傾向にある。つまり宥める方向ではダメって事だ。

そうなると使える手は限られてくるがここはこの容姿と性別を利用させてもらう。


 俺は背筋を正し、相手の目を見ながら話しその挙動から相手が何を考えどうしたいのかを洞察する。コールセンターなどでは相手の話方の強弱により応対方法を臨機応変に変えていくが基本的なマニュアルと言うのがどこのセンターでも存在する。

 つまり俺に今、必要なのはこの男の立ち位置と俺の置かれてる現状をきちんと把握するに尽きる。そこから、話の基準点を作り相手を恫喝する。

元の世界では恫喝は一発アウトだが、それでもそれを覆す一手がある。それは、今の俺の性別は女性だと言う事だ。

 女性が、乱暴されましたと言えばたとえ男が俺はやってない!と言っても司法当局や警察関係者や周囲の人間は女の味方になる。


 何故なら誰もが無意識に、女は生物学的に弱いと思ってるからだ。だから誰もが弱い奴を守る俺カッケ―とか英雄思考に陥りやすい。それこそが本当の男女差別と理解できずにだ。つまり……。

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