第26話

 周囲からは確かに……とか考えて見れば……などの声がチラホラ聞こえてくる。


「以上の点から、王家の婚約者を選ぶのでしたら、血筋を重視する点と魔力量の点、両方から見て……」

 俺は視線をアリスに向ける。そしてアリスが俺の続く言葉を察したのだろう。その青い瞳は大きく広げられ、言葉を発しようとしていたが……。だが、もう遅い!ここまで話を組み立ててればあとは……。



「アリス・ド・ヴァルキリアス皇女殿下の提案を私は受け入れクラウス殿下との婚約を辞退いたします。

 どうかアリス様はクラウス殿下とお幸せになってください」

俺は、そうアリスに告げると両手で顔を隠し走って夜会場をあとにした。決してうまく事が運んだとニヤけた面を周囲に見せたくなかった為ではない。


 夜会場から抜け出し外へ向かう廊下を走る。このまま、メイド服を失敬して夜会場を後にすれば問題ないだろう。あとは、冒険者ギルドに行き登録をしてドレスを売ればしばらくは問題ない。ある程度は情報は集めておいたから特に問題はないだろう。


「ユウティーシア公爵令嬢、少しいいかな?」

 唐突に声が廊下に響いた。周囲を見渡すと何時の間にか一人の男が立っていた。長身細身、男から漂う雰囲気は飛び込み営業をしてた時にヤクザの事務所に入った時のように危険な感じがする。俺が両手で顔を覆ったまま、指の隙間から男を観察していると男は肩を竦めて言葉を紡いだ。


「いやいや、公爵令嬢。ずいぶんと演技が得意なようですね?」

 無表情のまま男は俺にそう告げたのだ。俺が持論を展開した夜会場からはかなり距離が離れてる事を確認する。男に演技が見破られてるなら演技をしている必要はない。俺は周囲を注意深く見渡してから男以外に誰もいない事を確認し、両手を顔から離した。


「なんとなくそうだとは思っていましたが、本当にそうだとはね」

 男は苦笑しながら俺をジロジロと品定めするように見ているが男の態度が気に入らない。


「それで何の要件でしょうか?」


「怖いねぇ……薄々感づいてるはずなのに恐怖どころか顔色一つ変えない。君、本当に公爵の娘なのかい?」


「ええ、ユウティーシア・フォン・シュトロハイムで間違いありませんわ。それよりも私は忙しいのです。そこを退いて頂けますか?」

 俺が進もうとした通路を塞ぐように男はいつの間にか移動していた。俺が最大限警戒していたと言うのに……。こいつはやばい……。


「それは聞けないですね」


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