女子高生、駄弁る。
あのあと、いろいろあってファミレスに入っていた。
あたしはなんでこんなことをしているんだろう、という曖昧な不安を抱えたままだ。
四人分のドリンクバーがトレイの上でゆらゆらと揺れている。四人前でこれだけ気を使うんだから、五十億人も載せて回転してる地球の集中力はすごいな。
……他にもいるか。ミドリムシとか。
指で潰した感触は思い出せない。でも、汁が飛んでテンション下がったのは憶えてる。
薄情なもんだ。そんなことしか覚えてないなんて。
じゃあ、あの場合はどうすればよかったんだろう。
きっと正解はない。いや、あるかもしれないけど、あたしじゃ無理だ。
選び取る前に、思いつかない。
それでも、何かやったっていう証みたいなものがほしい。
あのミドリムシを否定せざるを得なかった証拠が。
あの緑色の単細胞生物が存在していた、その残り香みたいなものが、あたしのその時の気分なんて曖昧な感触だけだなんて。
どうしようもないあたしは、どうしようもないことを考えながら、結露したコップの曲面に写る難しい顔に辟易する。
いや、ほら。考えても解決しないじゃん。
解決しないのだけれど。
眉根を寄せた表情を形だけでも和ませるのに、数步かかった。
今は元気だけが取り柄だから、だから心配なんてさせられない。
席に戻ると、初対面の険悪さはどこ吹く風で、三人仲良く歓談していた。
「つまりね、熱変動そのものを時空間の移動として捉えた時、時間は距離と一緒なの」
金髪の神(自称)が意味不明なことを言っている。
なるほど、と目を輝かせて頷く生徒会長。長い髪はきらきら揺れて綺麗だし、顔面はどの角度から見ても童顔アイドル可愛い系だ。卑怯か? どこの化粧品使ってるんだ?
「だとしても、遡るには膨大なエネルギーと、目的地を観測する方法が……あ、エコーってそれ?」
会長はついて行っているようだが、その横の後輩……城島は無言だ。にこにこしながらストローでウーロン茶をすすっている。まるで小動物のよう。
生徒会長とは真逆のタイプで、黙っていれば凛々しい。モデルでも通ると思う。半面、口を開いたり動いたりすると小動物感を隠し切れず、どうしても可愛らしくなってしまう。
三人仲良く、と思ったが、よく見れば楽しくお喋りしているのは二人だけ。城島は困っているのだろう。たぶん。
そういえば、彼女の笑顔以外を見た記憶がほとんどないな。
あれ?
……城島、ジュース飲んでる?
「あー、ドリンクバー持ってきたんですけどー」
やっとのことで声が出た。とりあえず話しかけてはみるものの、
「あれぇ!? この時代ってまだ知識ンカー発明されてないよね?」
神、華麗にスルー。いや無視すんなよ。なんで興奮気味なんだよ。あとなんだその単語は。
突っ込みが追いつかないから口にも出さない。疲れる。疲れた。
「あんだけ大声出してりゃなんとなく察するっての……」
辟易した顔の生徒会長。あの話について行っているらしい変な人だ。
さて、と彼女はこちらをちらりと見て、
「卯野ちゃん、ありがと。ごめん、君がトイレ行ってる間に持ってきちゃった。オレンジジュースでよかった?」
手のひらを顔の前で合わせる生徒会長。あたしの席の前にはオレンジジュース。
そして、いい人だ。
「いえ、こっちこそあざます、会長」
頭を下げるとコップがトレイからこぼれ落ちそうで、無闇に動けない。仕方ないから声だけで応じる。
「いただきます、先輩」
トレイを持って、後輩の正面、神の隣に嫌々座る。
この席、嫌だなぁ。
三人とも別種の美人で、あたしだけ普通。
いや、あたしはどこいっても普通か。別段変わったところもなく、これといってすごい特技も今はない。
くそ、確かに「平凡」だ。
この変な状況の発端は、十分程前にあった。
元のサイズに戻ったあたしは、当然心配した。だって、風圧で吹っ飛んだ車やショウウィンドのガラスがあるのだから、けが人の一人や二人出ていてもおかしくない。
そしてなにより、
「城島!」
彼女が心配だ。
真横でいきなり先輩が巨大化したんだぞ。その心中たるや。いやわかんないけど。
「先輩、大丈夫ですか!?」
杖をつきつつよたよたと近づいてくる後輩。普段のにこやかな貌はどこかへ行ってしまった。まるで別人のよう。お互い焦ってもつれあうように抱き合う。
なんかいい匂いがする。無事でよかった。おのれ美少女。
「怪我ない!? 大丈夫!?」
「先輩こそなんでもありませんか?」
城島の細く、しかし体幹のしっかりした身体をぺたぺたと触る。柔らかい。
「よかったぁ……怪我した人は見た? 警察や救急呼んだ?」
口早になってしまう。自覚はあるけど、どうしようもない。人生初の事態に焦る焦る。多分、彼氏ができてホテルに行かないかと言われてもこうはならないくらい焦っている。彼氏ができたことないし言われたこともないけど。
「あ、いえ、」
口籠る後輩。もじもじしてる。儚い顔面が強い。格差社会の縮図か。でも、とりあえず城島自身に何か怪我とかそういうことはなさそうだ。
「そのへんはさぁ、気にしなくていーよ」
頭上から声。さっきのやつ。
自称、神。そいつの声だ。
神の声って表現だと頭の中に直接響くようなイメージだけど、この神の声は肉声だ。
「あん?」
意外とドスきいた声が出てしまった。自然と睨み付けてしまう。周りをあれだけ危険にさらして(さらさせられて?)おいて、怒らないほうがおかしいだろう。
乙女ポイント減点なし。ノーカン。セーフ。そういうことにして遠慮なくに睨む。
「窓、割れてないっしょー」
あっけらかんと、神。
たしかに、周りを見渡せば被害ゼロ、に見える。よかった。とりあえず被害ゼロらしい。ゼロだよね?
いくら見渡しても損害賠償を請求されそうな景色には見えない。
普段通りの日常がそこにあった。
「たしかに……ってそうじゃなくて!」
慌てるあたし。上から目線で神は言葉を続ける。この場合の上からというのは、物理的なもの。あいつ、浮いてやがる。金色の髪が羽のように広がり、口さえ開かなければ神々しいと言って差し支えない。
「面倒はやだしぃ、他科の連中にあれこれ言われたくないしねー」
ただ、唇を開けばこれだ。
華麗に着地し、何事もない雑踏をひらひらと歩む神。金髪女。気の抜けた音。腹立たしい。
そして、道ゆく人々は先程の珍事なぞなにもなかったかのように歩いている。座っている。喋っている。横転した車も無ければ、割れたガラスも散らばっていない。遠くでパトカーのサイレンが聞こえたけれど、それもすぐ消えた。
何もない。何事もない。日常だ。普通だ。
「どういうこと……?」
訝しむ。睨む目も弱まる。疑問が頭を埋め尽くす。
「んー、まぁ、神なのでー」
それですべて説明した気になったのか、その女はじゃあ、と手を振ってどこかへ行こうと踵を返し、そして失敗した。
その金髪女の肩を、小さな手が掴んだのだ。
「アンカートゥワインド」
どこかで聞き覚えのある声。誰だっけ。でも自分が聞いたのは、こんなに怒りを露わにした声じゃなくて。
もっと落ち着いていて、もっと穏やかで、もっと居心地のいい、そんな声だった気がする。
だから、肩の向こうから見覚えのある顔が覗いた時には驚いた。
思い出した。
うちの学校の生徒会長だ。
生徒会長、神原練奈。小学生みたいな身長だが、とにかくオーラ的なやつが強い。雰囲気で大きく見えるタイプだ。実物は小さくて可愛い系。にもかかわらず頭身は高い。世の中は不公平である。
それにしても、何回見ても目でけぇし顔小っちゃいなおい。高い声もあいまってアニメキャラみたいだ。うちの学校で横に並びたくない人間トップスリーの一人。ちなみにもう一人は城島だ。
「あら、捕まっちゃったー。どなた?」
神はなんでもないように言う。
「それはこっちのセリフ。あたしと同じ制服着た巨人が現れたと思ったらいきなり消えて、それでこの状況。さっきの発言を聞くに元凶はあなた。なら、説明責任もあなたよね?」
睨まれているのはあたしじゃないのに、蛇に睨まれた蛙みたいな気持ちになる一言。
「ひぇ」
隣で城島が後ずさった。たしかに怖い。普段は小鳥の囀るようなアニメ声で壇上に立ってるのに、いざとなったらこれか。ギャップが凄まじい。
「聞いてて、覚えてる、か。成程今回は巻き込みすぎたか」
あの声と顔が間近にあるのに、神は平気な表情だ。信じられない。
「うちの学校の生徒に何した?」
あたしよりもはるかに背の低いはずの生徒会長は、すごむとすごい。いやすごんでるからすごいのか? とにかく、恐ろしい。
でも、ちょっと落ち着いた。会長は何故か心配してくれるらしい。そんなに深い仲ではないどころか、あたしは直接話したこともない。
けれど正直、事態を呑み込みかねていたあたしにとって、頭の良さそうな人がそばにいてくれるのはありがたい。
「うーん。巻き込んじゃったんなら仕方ない。三人とも、事情聞いとく?」
うなずく。理解はさておくとして、聞く権利くらいはあるだろう。特に城島は巨大人間(あたしだ)の真横で危ない目にあっていたかもしれないわけだし。
聞こえよがしにため息をつく生徒会長。この人のちょっと疲れたような顔を見たのは初めてかもしれない。
そりゃそうか。登壇してなんか喋ってるのしか見てないもんな。
「立ち話もなんでしょ。ちょっと歩いたらファミレスあるから。おいで」
そう言ってゆっくりと歩き出した生徒会長。幾分穏やかな声色に安心を覚える。
身長のわりに歩きの速い会長の背中を、三人で追いかけた。
で、結局。ファミレスに居着くことにしたあたしたちは、ドリンクバーを人数分頼んでテーブルに着いた。
トイレから帰ってきたところ、場の主導権は生徒会長が保ったままだった。けれど、雰囲気は随分と和らいでいた。
「つまり……層が違うから直接認識できないもの同士が、互いに互いの受容器官を通して反響し合うことで認識してるってこと?」
深く腰掛けて、顎に手を添える生徒会長。
「うーん、ちょっと違う。一方的なの。あなたたちだけが正しく認識できてない状態。言うなれば、神は四色以上の光の受容体を持ってるってわけ。そして、真なる光は無限に近い色を持つんだけど、それは数えられるの」
神は頬杖を突いて応じる。
……全然わからない会話だ。いやこれ会話だよね? そもそも日本語で合ってる?
斜め前に座る城島に視線だけで助けを求める。彼女も首を振っていた。だよね。わかんないよね。よかった。
生徒会長の表情は、数分前の険のある顔から真剣なものへと変わっていた。
「待って。ならなんでエコーなんて表現のものを使うの?」
「神、本体はすっごく遠くてー。ぶっちゃけ君らって、君らから見た蟻みたいなものなのよね」
「熱的距離?」
「あと階層。だから、」
「だから反響させざるを得ないわけね。解ってきた。つまり、あなたはこっちの熱宇宙っていう波立つ水槽に対して、外から眺めるか、ソナーで中を把握してから釣り糸を垂らすような干渉しかできないんだ」
会長は、そうよね、と言いたげな眼を神にむけている。
なお、当事者のあたしはちんぷんかんぷんだ。
「あのー」
腰を折っていいものかと悩みはしたが、このままだとずっと二人で話していそうだ。おずおずと片手を挙げて、今後のことを聞くことにする。
「はい、卯野ちゃん」
どうぞ、と会長から手を差し伸べられる。
「うぇっ……会長、なんで名前知ってるんですか」
んふふー、と猫のように笑う彼女は、とても愛くるしい顔なのに、どこかおぼろげな印象だ。ずるいぞ。
「自分の通ってる学校の生徒だからねー。なんとなーく覚えるのさ。それに」
と、会長は横を見る。城島が両手で冷えたウーロン茶を温めていた。
「
「結局聞いたんじゃないですか!」
「あはは、ごめんごめん。聞こえちゃってた。それよか卯野ちゃん。質問はなーに?」
片手を挙げたまま、神に目を向ける。金髪は自分の髪色に似たオレンジジュースをためすがめつ覗いている。そんなに不思議か?
「神は、あたしになにをやらせたいの?」
「神さー。二回も三回も同じこと言うのめんどい。神原練奈に要点は話したし、そっちに聞いてよ」
こちらに一切の視線を向けないこの女、胸のサイズと顔面以外はミジンコ未満か? さっきのミドリムシの方が性格良いと思う。喋ったことないけど。
「もう……わかったよ。訂正あったら言ってよね」
会長は立ち上がり、
「飲み物の換え取ってくるけど、みんな何が良い?」
少し、長くなりそうだ。
厄介なことに巻き込まれたんだなぁ、とぼんやり考えた。
紅茶。コーンポタージュ。オレンジジュース。神の前には何も無い。曰く、要らない、だそうだ。
さて、と会長が咳払い。
「卯野ちゃんがやるのは、コーンポタージュの中身をキャロットポタージュに変えないための競技だよ」
いきなりわからない。
「いきなりわからないです」
「まぁまぁ。聞いて聞いて」
苦笑いされた。困らせても絵になるな。困らせたくて言ったわけではないけれど。
「さっきみたいなのを、あと四回。相手は不明……というか、明かしちゃいけないんだって」
「なるほど」
こっちはチャンピオンだから、ハンデみたいなものだろうか。あたし、人殴ったことないけど。
「あの!」
城島、ハンズアップ。猫パンチを構えているみたいだ。
「どうして戦うんですか?」
「うん、良い質問だ」
会長、満足げ。
「コーンポタージュって、コーンが入ってるじゃない」
「「はぁ」」
猫みたいなポーズの後輩。ひょっとこみたいな顔して聞いてるあたし。
「そこに、人参がたくさん入ったら、」
「にんじんポタージュですね」
「ま、まぁ極端に言っちゃえばそうね」
即答したあたしに、やや戸惑っている会長。なんか変なこと言ったか。
「でね、このコーンが人間なの。そして、他の具が他の生き物」
会長の言葉に、城島再び猫パンチの構え。
「あの、一番比率が高いから今はコーンポタージュだけど、他の具材が増えたら別の料理になる……んですね?」
頷く会長。
「そ。勝ち抜いた具、勝ち抜いた種がこのマグカップの中を、地球を支配できる。今は人間が一番強いけど、負けたら、」
負けたら?
負ける。それは。
どっどど。
どどうど。
心臓、が。
ぎりぎり、
締め付け、
「まぁ、なーんもおきないよ」
神の声であたしは我に返る。握った右手を自覚する。爪が手のひらに食い込んで痛い。
「千年とか、一万年とか、そういう単位でゆーっくり偏移させてくの。一気にやると環境変わりすぎるから」
恐竜んときみたいにねーと、なんでもないように言う。こいつにとってはなんでもないんだろう。
だからさ、と会長の涼やかな音。
「だから、怪我しない程度にやんなよー。あなたのことを心配する人は少なくともここに二人いるんだから」
ね? と笑みを作って。
結局、あたしは何も応えられなかった。
「そんでぇ、こっからはまだ喋ってないんだけど」
まだあるのか、神。
「洗いざらい言ってくれないと困る。戦うのあたしだし」
「実は時間も決まってないのよね」
時間。つまり、
「開催日不明ってこと?」
授業中にいきなり巨大化したらどうしよう。
「そ、立候補者が見つかり次第開始」
なんだそれ。ガバガバじゃないか。会長も不思議そうな顔をしている。
「それさ、参加者が規定の人数に達しなかったらどうするの?」
「別にー。卯野風香の選手権は三千百五十三万六千秒だけだから、他の戦士にやってもらうだけ」
ピンとこない数字だ。大きいことしかわからない。
「一年か。卯野ちゃん来年三年だし、さっさと終わらせてあげられないの?」
なんでこの数字聞いただけで一年って単位がすぐ出てくるんだこの人。
「時間の跳躍したり、行き来すれば簡単に解決する問題でしょ」
「だーめ。過去は勿論、未来も当然だめ。だって、勝敗で歴史そのものが分岐するんだから。この宇宙にとっての今じゃないと無意味なの」
「やっぱりダメか」
この会話のどこに『やっぱり』が入る余地があったのだろうか。あと今さらっとタイムマシンみたいなものを前提にしてなかったか。
「ということは、」
ということは。なにが解ったんだ。会長がわからないよあたしは。
「複数の分岐を観察する学派ってことね」
「……やりにくいなぁ、神原練奈」
睨みあう二人。どういうことだってば。
しばし無言。解説はなし。会長が補足しないってことは多分、重要じゃないんだろう。
「他に、隠してるルールは?」
重々しく口を開く会長。
「無い。生物が知っておくべきはここまで。もういい?」
溜息をついた神。飽きてるのだろうか。なんとなくむかつくな。
それを無視して、会長は指をひとつ立てる。
「ひとつ。負けたら地球は、遠大な時間をかけて人類以外の生物が割拠する」
無感動な顔の神。あたしは話がでかいなぁ、とぼんやりしている。
会長が二本目の指を立てた。
「ふたつ。試合は五回。内一回は終わっていて、おおよそ一週間の間を空けて開催される予定だが、細かい時間や対戦相手は不明」
「……んだよ、しっかり聞いてんじゃん」
無視して三本目の指を立てる会長。
「みっつ。アンカーに巻き込まれた三人は、怪我や死亡が巻き戻らない」
「えっ」
「えっ」
城島とあたし、二人で驚く。
「あー。なんで気付くかなー。もっと切羽詰まってからのが面白いのにー」
「それはさぁ。知っておくべきルールじゃないかなぁ?」
あっけらかんとした神と、再び怒気を孕んだ声に戻る会長。いや、違う。この人、ずっと怒ってるのか。
「あの、練奈さん、どういう……」
恐る恐るでも聞ける城島は偉い。あたしは怖くて無理だ。いろんな意味で。
自分だけならまだいい。城島と、会長まで?
「コーンポタージュの例に戻るね。コーンが人間。で、中にエコーヒット、つまりどこにコーンがあるのかわかる。そこに、アンカートゥワインド」
スプーンをポタージュにちゃぷり。掬い取ったのは、三粒のコーン。それは確かに、マグカップの中にありながら、コーンポタージュから、地球の普通のルールから外れた存在となっていた。
「だからね、卯野ちゃん。絶対に、怪我したり、無理したりしないでね?」
眉を下げてあたしを心配する会長はなぜか、とても申し訳なさそうだった。
すっかり暗くなったホームで電車を待つ。城島とは逆方向だった。
「思ったほど寒くないねぇ」
「ですねー」
呑気に。さっきまでの出来事が嘘かのように。
指の感触はもう覚えてない。頭をよぎる揺れるコップ。
電車がホームに滑り込む。人が、たくさん載っている。
普通の光景。普段の風景。
なにも変わりない、なにも特別ではない、そんな景色。
「じゃあ、先輩。また明日」
「うん、城島ー、気を付けろよー」
はい、と笑顔を見せて、たくさんの人に紛れ込んだ。
紛れ込むんだ。誰でも。
地球と車掌の集中力で、電車は人をこぼすことなく動き出した。
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