27.

 丸刈り男が、折り畳み式ポケットナイフを出して、私の首に巻かれたロープと手足を拘束している粘着テープを切ってくれた。

「すまない……ありがとう」私は、丸刈り男だけなく、その場に居る三人全員に向けて感謝の言葉を述べた。

 立ち上がり、改めて、私を助けてくれた三人の顔を見回す。

 まずは、おかっぱ頭のシュワルツェネッガー。

 両手にそれぞれ一丁ずつ、大きなおのを持っていた。中世ヨーロッパのドラマに登場するヴァイキングの戦斧バットル・アックスとかいう武器に似ている。

 着ている物が安っぽいチェック柄のシャツにジーンズというのは民宿で会った時と変わらないが、革のサスペンダーと一体化したゴツいベルトを締めている。

 ベルトの両側には、古代ローマ剣士が下げていたような短剣用のさやが吊るされていた。

 そして、両方の脇の下には特大の拳銃が二丁。

(ここが現代の日本なら、彼は銃刀法違反の犯罪者ということになるが……)

 私は、そんな風に思いつつ、しかし同時に(この森にも、さっきの村にも、現代日本の法律は通用しない……どころか、)とも直感していた。

 もはや、どんな奇妙な人間が現れても、どんな奇妙な事を言われても、いちいち驚いていられないという心境だった。

 おかっぱ頭の隣には、ダークスーツにネクタイを締めた丸刈りの中年男が立っている。

 丸刈り男も、日本では有り得ないような得物を抱えていた。

 自動小銃だ。

 ニュースや映画で、アメリカ兵が必ず持っているヤツだった。

 米軍の制式小銃……確かM4とかいったはずだ。

 最後に、緑色のショートヘアーの少女。

 昨日の朝と同じデニム・ジャケットにジーンズにスニーカー。

 私のような五十男にとって若い女のファッションなど、どうでも良いことではあるが、少女が着ているものは、彼女のはすな雰囲気と良く合っているような気がした。

 男たちと違って、緑髪の少女は武器を携行していないように見えるが、実際のところは分からなかった。もしかしたら何処どこかのポケットに小型ピストルの一つくらい隠し持っているかも知れないと思った。

 周囲の森から「ガサガサ」という葉擦はずれの音が聞こえた。

 単に風が吹いて葉が揺れただけかも知れないし……そうではないかも知れない。

「なんかヤバそうよ。車に戻ろうよ」

 少女の言葉に男たちがうなづいて、カローラ・ツーリングの方へ戻っていく。

「おじさんも乗りなよ。助けてあげるから」少女が私を見て言った。

「ああ。ありがとう」私もうなづき、少女の後にいてカローラの方へ歩いた。

 丸刈り男は、車の後部ハッチを開け、抱えていた自動小銃を荷室に置いて自分自身は運転席に収まった。

 続いて、おかっぱ男が、両腰に下げていた短剣をさやごと外して荷室に置き、後部ハッチを閉じて助手席に座った。

 その時、ふと奇妙な事に気づいた。

(さっき、おかっぱシュワルツェネッガーが両手に持っていたのは、馬鹿デカいだったはずだ……あれは何処どこへ行った? それに、短剣は何処から現れた?)

 そんなことを考え、少しのあいだ動きを止めていた私に、緑髪の少女が自動車の向こう側から「さあ、早く乗りなよ」と言った。

 あわてて乗り込む。

 私が助手席側の後部座席、少女が運転席側の後部座席だ。

 周囲の森から、何人かの〈森人〉が出てきた。

 さっきの一群より数は少ない。ざっと十人くらいか。

 カローラの集中ドアロックが作動して全てのドアに鍵が掛けられた。

〈森人〉が車に触れる。

 と、同時に、彼らは衝撃を受けたように自動車のボディから二歩、三歩後退あとずさった。

 その様子を窓の内側から見て驚く私に、少女が言った。「よ。この車は、精神エネルギーの膜で保護されているの」

「行くぞ」運転席の丸刈り男が言い、カローラがゆっくりと動き始める。

 森の道を、村へ戻る方へ。

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