26.

 突然、広場の外から、何者かが〈森人〉どもに向けて強い光を浴びせた。

 光に敏感なのだろうか……全身に緑の葉を生やした化物どもは、一斉に立ち上がって光源の方を振り返るような素振りを見せた。

 私の目玉に『うごめく葉』を植え付けようとしていた〈森人〉も立ち上がった。『うごめく葉』のが、〈森人〉の手から、ポトリッ、と私の顔の横に落ちる。

 地面に落ちた『うごめく葉』のが、細く短い無数の根毛を足のように動かして、じわじわと私の顔へ近づいて来る。

「おい、こっちへ来いよ。まとめてサラダにしてやるよ」光源の方から声が聞こえた。声質からして中年の男のようだ。

 続いて、ピュンッ……という空を切り裂くような音。鋭いが音量自体は小さい。

〈森人〉の一人が、銃で撃たれたように背をらせ、その格好のまま

 子供の頃、ギリシャの怪物ゴーゴンににらまれた戦士が一瞬にして石になるという特撮映画を見た事がある……そのさまだった。

 また、ピュンッ……という空を切り裂く音。

 さらに一人、〈森人〉が銃で撃たれたように体を反らせ、その格好のまま石になる。

 ピュンッ……ピュンッ……ピュンッ……

 音がするたびに、一人また一人と〈森人〉が石になっていく。

 その間にも、少しずつ、少しずつ、『うごめく葉』のが地面を這って私の顔に近づいてくる。

 ついに全ての〈森人〉が石になった。

 どこからか「ぬうんっ」という気合の声。

 民宿の玄関に居た、おかっぱ頭のシュワルツェネッガーと同じ声だ。

 声と同時に、石になった〈森人〉どもの体が粉々に砕け散った。

 その向こうから、自動車のヘッドライトを背に浴びた大男の影が浮かび上がる。

「大丈夫か?」大男……民宿のシュワルツェネッガーが言った。

 私は返事さえ出来なかった。『うごめく葉』のは、既に頬を這い上がり私の左の目に近づいていた。蛆虫うじむしの這うような感触が、徐々に目玉へ向かって来る。

 突然、その感触が無くなった。

 見上げると、丸刈り・丸顔・団子っ鼻の中年男が立っていた。

 昨日、林道でれ違ったカローラの運転手だ。あの時と同じダークスーツを着ている。

 左手の親指と人差し指で、私の顔を這っていた『うごめく葉』をつまんでいる。

「何とか間に合ったな」丸刈り男が言った。

 さっき〈森人〉に向かって『サラダにしてやる』と軽口を叩いた声だった。

「こいつが体に根を下ろすと厄介やっかいなんだ。周囲の肉ごとえぐり取らないと、いずれは全身に根が回って養分を吸い取られちまう……生きたまま体の内側からって訳だ」

 そう言って、男は、葉を摘んでいる指に少しだけ力を入れた。

 一瞬で、葉が……石に変わった。

 男は、それをポイッと広場の端に投げた。

 車のドアを開け閉めする音。

 続いて、第三の人物が近づいて来る気配。

 視界に、髪を緑に染めた少女の顔が現れる。

「大丈夫? おじさん?」少女が言った。 

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