24.

 老人の運転する軽トラは、村があると思われる方へ走り去ってしまった。

 私は両手両足をガムテープで縛られ、首を石柱に繋がれ、土の上に転がったまま、たった一人、取り残された。

『でんぐり返し』の要領で反動をつけて上体だけでも起こそうと試みるが、どうやっても上手く行かない。

 すぐに息が上がり、無駄に体力を消耗するだけだと悟ってめた。

(これが五十二歳の体力か。情けない)

 もっとも、二十歳の自分ならこの状況に対処できたのかと聞かれれば、やはり無理だと答えただろう。子供の頃からヒョロヒョロとしたモヤシっ子で、何より体育の授業が苦手だった。

 夜になると〈森人〉とかいう連中が現れて〈祭壇〉に繋がれた私を食い殺すだろうと、あの老人は言っていた。

 馬鹿馬鹿しいと思う一方で、今までの異様な出来事を考えると、あながち虚仮こけおどしとも断定できなかった。

 食人族みたいな奴らが実在しなかったとしても、このまま起き上がる事さえ出来ずに一人放置され続ければ、いずれ渇きと飢えで死んでしまう。

 石柱から自分の首まで這っている白いロープに目をやる。

 改めて見ると結構な太さがあり、頑丈そうだ。

 あさなどの天然素材だろうか? 根気良く歯でかじり続ければ、いつかは切断できるか?

 試しにんでみる。

 ダメだ……あまりにも固い。ロープが切れるより先に私の歯の方が折れてしまいそうだ。

 その時、木々の向こうに何かの気配を感じた。

 ハッとして周囲の森を見回す。

 青々と繁る木の葉と下草で見通しは悪い。

 何者かが隠れていたとしても、それを確認することは出来なかった。

 確信は無い……が、誰かが木の陰から私を見つめているという感覚をぬぐうことが出来ない。

(しかも、一つだけじゃない)

 周囲の森のあらゆる場所から気配を感じる。

(ひょっとして〈森人〉とかいう連中か? 俺を喰らいに来たってのか?)

 しかし、いつまでっても、誰も姿を現さなかった。

 木の陰で、ひたすら私の様子を伺っているような感じだ。

〈森人〉は日が暮れた後に襲って来るという老人の言葉を思い出した。

 いま何時頃だろうか。

 空を仰いで太陽の位置を確認した……が、日没まであと何時間かを推測できるほどアウトドアの知識があるわけでもない。

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