22.
なぜ夢には『自分』が二人登場するのだろうか?
演劇に例えて言えば『舞台の上で役を演じている自分』と『それを観客席から見ている自分』だ。
そのとき見た夢の中にも『私』が二人居た。
一人目の『私』は、気絶して乾いた土の上に倒れていた。
倒れている私の周囲を白服の男女がぐるりと取り囲んでいた。
その様子を、もう一人の私が空中から見下ろしている。
誰も、空中にいる私の存在に気づかない。
白服たちの後頭部には、大きなイボのような肉の塊が盛り上がっていて、その肉塊の
白服集団の中で一人だけ農作業服を着ている老人が、輪の中から前に出て、うつ伏せに倒れている私を足で蹴って転がし、仰向けにした。
老人は、私の頭の横に
「気を失っている」
「確かだろうな?」白服集団の一人……背の高い五十歳がらみの男が念を押した。雰囲気から想像するに、この男がリーダーなのかもしれない。
「ああ」と軽トラの老人が
白服のリーダーらしき男が
「この男、ひょっとしたら、脳に何らかの障害を持っているやも知れんな」言いながら、老人は立ち上がって私の脇腹を軽く蹴った。
「困ったな」と白服のリーダー。「〈偉大なる創造神〉さまが、脳に障害のある者をお気に召すとは思えん……どうしたものか」
「
「うむ……」リーダーは
突然に発せられたその名を聞いて、私は驚く。
『百合子』など有りふれた名だが、反射的に、あの
リーダーが顔を上げ、
「いいえ。〈偉大なる創造神〉さまとご一緒に
「そうか……」さらに
リーダーが『神の怒り』という言葉を使った瞬間、その場に異様な緊張が走った。
彼は「それだけは絶対に避けねばならん」と
「まあ、それが無難だな。了解した」
軽トラの老人は、自分の車の助手席から粘着テープを持って来て、私の両手を背中に
さらに両足首にもテープを巻き、最後に私の口にもテープを貼って封じた。
そして、気絶した私の体をさも軽そうにヒョイと肩に
見た目は枯れ枝のように痩せているのに、何という力だ。
「じゃあ早速、出発するよ」老人は軽トラに乗り込みながら言った。「こいつを〈森の祭壇〉に縛りつけて来る。森人が活動を始める前に戻らにゃならんからな」
「ああ。頼む」と最後にリーダーが言った。
老人は手を振って応え、エンジンを掛けた。
気絶した私を荷台に載せた軽トラは、白い服の集団に見送られ、ピラミッドのある広場を出た。
トラックは谷底の道を行き、田園風景の中を走り、私と老人が初めて会った場所を通り過ぎた。
その走る先に、瘴気を黒々と湛えた大きな森があった。
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