15.

(怪しげな連中だったな……犯罪がらみとかじゃないよな? 堅気カタギには見えない男二人と、いかにも家出娘っぽい未成年? ひょっとして、山奥で少女売春とか? まさか……)

 4WD仕様のミライースを運転して森の奥へ奥へと走らせながら、そんな剣呑な事を思った。

 緑髪の少女が言ったとおり、少し行くと、ハンドルを何度か切り返せばUターンできるくらいには幅広い場所に出た。

 林道は、その先まだ続いているようだったが、幅がさらに細くなっていた。

 この道の向こうに人が住んでるとは、とても思えなかった。まして『村』なんぞるはずもない。

 いったん車を停めた。

 車外に出ようとドアノブに手を掛けたところで、緑髪の少女の言葉を思い出す。

「熊が出る、か……」

 確かに、近隣の山々には熊が生息していて、子供の頃には、目撃談なんかもたまに聞いた。

 最近は、異常気象だか何だかの影響で、人里まで生息範囲を広げているという話もネット・ニュースで読んだことがある。

 窓ガラスを十センチほど開けて、耳をすました。

 風。ザワザワという葉擦れの音。鳥の声。

 車内から周囲の森を見回す。

 大型動物の影は確認できなかった。

(さっきの女の子、『この道は安全確認済みだけど、他の林道は分からない』って言ってたな……この森には他にも林道がある、って訳か)

 あらためて思い返してみると、彼女の言い方にはを感じる。

(この道は自分たちが確認済み……っていうのも、考えてみれば奇妙な事だ。森林パトロールのレンジャー隊なら、ともかく……スーツのオジサンと、チャラ男と、髪を染めた女子高生のトリオだぞ。あいつらに熊なんか追い払えるものかよ)

 やはり『熊』というのは、とっさのか。

 何か別の目的があって、連中は、こんな山の中に入ったんだ。

 それは他人には知られたくない何か、だ。

 だから私を追い払うために『熊が出る』なんて嘘をいた。

(銀行強盗の一味かな? このあたりに札束を埋めたとか?)

 さすがに馬鹿馬鹿しくなって、車の中で自嘲してしまった。

 何にせよ、この先に行っても村なんて見つからないだろう。引き返すのが妥当だ。

 私は下手なハンドルさばきでミライースの向きを百八十度転換し、町に戻る方へ鼻先を向けた。

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