13.

 目の前に、森があった。

 私が記憶を頼りにタブレットの航空写真に電子ペンで線を引き、囲ったエリアだ。

 実際に、車でその場所に行ってみても、鬱蒼とした広葉樹と子供の背丈ほどもある下草が繁っている以外、何も無かった。

 森の奥から、鳥たちの鳴く声が聞こえてきた。

 振り向くと、後ろ側には畑。その奥に農家が一軒。

 私は、農地と森の境界線上に立っていた。

 畑の中を通る細い未舗装の農道は、境界線を超えて森の中へ入り、そのまま林道に変わるようだ。

 ダイハツ・ミライースに戻り、運転席に座ってしばし考える。

(どうする? 林道に入ってみるか?)

 こうして現地へ来て確かめてみても、グーグル・マップや郷土史の写真どおり森が広がっているだけなのだから、やはり私の記憶違いだろう。それが常識的な判断というものだ。

(この舗装もされていない細い林道の先に、実は村が……なんて事ないよな……これレンタカーだし……左右に繁る木の枝で車体に擦り傷でも作ったら、弁償させられるんだろうか。それとも保険が適用されるのかな)

 もちろん運転免許は持っているが、マイカーは持っていないし、東京暮らしで自動車が必要だと思った事もない。

 この年齢としになるまで車のハンドルを握った経験は数える程しかなく、ほとんどペーパー・ドライバーに近い。自分自身、さほど運転が上手うまいとは思っていない。

 車一台分の幅しかない細い林道を通って深い森の中へ分け入るのは、私にとって少々難易度が高いように思えた。

 しばらく運転席に座って考えたあと、「しかし、せっかくここまで来たんだ」と言いながら、私は自動車のエンジンを掛けた。

 どうせ森に入ったところで、山菜採りの爺さん婆さんに出会うのが関の山だろうが、冒険気分で、行けるところまで行ってみようと思った。

 CVTのセレクターをパーキングからドライブに移す。

 私を乗せたミライースは、そろそろと森の中へ進み始めた。

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