9.

 スポーツ・ドリンクを飲み干し、空きペットボトルを『リサイクル』と書かれたゴミ箱に入れ、来た道を戻った。

 甘味をったことで多少は飢えも渇きも収まったけれど、やはり固形物を胃に入れないと本当には満足できない。

(九時になったら真っ先に農協へ行って、アンパンか何かを買って食おう)

 道々、そんな事を思った。

 青色(それとも緑色か?)の髪のパソコン少女が気になって、民宿の玄関の扉を開けるとぐにソファのある方をチラリと見た。

 三人の男女が座っていた。

 ……驚いた……

 一方は青い髪、もう一方は緑色の髪。

 二人並んでソファに腰掛こしかけている。

(ああ……なるほど……そういう事か)

 つまり、という訳だ。

 それにしても良く似ていた。

 髪の色と服装は違うが、顔の造作そのものは、まさに『うりふたつ』だ。

(……それで、か? あまりにも似すぎているから、お互いにわざと違う色で髪を染めているのか? 他人が区別しやすいように?)

 いて違いを挙げるとすれば、髪が青くて膝にパソコンを載せている少女からは、知的な雰囲気を感じた。

 一方、スポーツ・ドリンクをゴクゴクと飲んでいる緑色の少女からは、少々『はす』な印象を受ける。

 二人の相向かいに座っている男にも驚かされた。

 巨大な筋肉の塊のような男だ。

 立ち上がれば、身長百九十センチを超えているだろう。

 印象としては、全盛期のアーノルド・シュワルツネッガーの全身に、さらに一、二割ほども筋肉を上乗せしたような男だ。

 年齢は三十歳前後だろうか。

 耳たぶの下あたりの長さで、ストレートの黒髪を『おかっぱ』に切りそろえている。

 垢抜けないチェック柄のシャツとジーンズが、内側から極太の筋肉に押されて、今にもハチ切れそうだ。

「この町の何処どこかに〈接点〉が隠されている確率は?」筋肉男が、青い髪の少女にたずねた。

「だいたい三十パーセントくらい、かな」と、パソコンの画面を見ながら青い髪の少女が答えた。

 緑色の髪の少女がスポーツ・ドリンクのペットボトルから口を離し「ええ? 昨日の計算結果より確率下がってるじゃん」と言って、天を仰いだ。「今回も、無駄足かなぁ」

 そこで、筋肉男が私に視線を向けた。

 られるようにして、双子の姉妹も私を見た。

「何か?」男が私に言った。

 言われて初めて、私は自分がソファの三人をっと見つめていた事に気づいた。ひど気不味きまずかった。

「ああ、いや……別に……おはようございます」どもり気味に答えて、私は、そそくさと自分の部屋へ戻った。

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