7.
民宿に泊まったその夜も、例の夢を見た。
深い森の中の道で、
ただ、東京の我が家で見ていた夢とは一つだけ違う事があった。
百合子が声を発したのだ。
「ここに来ては、ダメ……ここから先に、行っては、ダメ」
彼女は、小学生の私を見つめたまま、そう言った。
(……ああ、懐かしい声だ……)空から俯瞰して見ている私は思った。
道の上に立つ小学生の私は、口を開け、何かを言おうとした。
しかし、どうしても声が出せなかった。
何を言ったら良いのかも分からなかった。
百合子は、ゆっくりと首を振り、それから後ろを向いて森の奥に消えた。
* * *
そこで目が覚めた。
枕元の携帯電話を見ると、午前三時だった。
いつも通りだ。
夢を見て、だいたい深夜の二時から三時のあいだに目覚めて、それから布団の中で眠れない時間を過ごし、明け方またうつらうつらと浅い眠りについて、朝の七時ごろに起きる……怪我から退院して以降、こんなサイクルが続いていた。
(しかし今回のは、少し
田舎特有の真っ暗な夜に包まれ、見えない天井を見つめながら夢を反芻する。
(読原百合子が言葉を発した……記憶の中にある、そのままの声で……)
夢の登場人物の一挙手一投足、一言一句に対して、それを見ている私が一喜一憂しても仕方がないとは分かっていたが、何だか嬉しかった。
(東京で何度も見た夢と今夜の夢の内容が少しだけ違っていたのは、やはり
そんな事をグルグル考えているうちに、薄いカーテンの向こう側が明るくなり始めた。
私の意識は、再び浅い眠りの中へ沈んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます