2.

 N県は、山ばかりで海岸線の無い内陸県だ。

 私の生まれ故郷は、そのN県でも特に辺鄙な山間やまあいにあった。

 東京から新幹線に乗って県庁所在市まで行き、そこからローカル線に乗って二時間、さらにそこから二時間半くねくね曲がる山道を自動車に乗って、ようやく辿たどり着ける。

 朝早く出発する新幹線に乗って、昼過ぎにローカル線の最寄り駅に到着した。(と言っても、故郷の町まで車で二時間半の距離だ)

 改札を出てぐの蕎麦屋で昼食を済ませ、ネットで予約を入れておいた駅前のレンタカー屋に行って自動車を借りた。

 男の一人旅に豪華な装備は必要ないと思い、そこで借りられる一番安い車種を予約しておいた。

 ダイハツ・ミライース。4WD、オートマ。

 東京では初夏の風が吹いて陽差しに汗ばむ日もある。

 いくら標高のある田舎町とはいえ、流石さすがにもう残雪は無いだろうと思ったが、念のため4WDを予約した。

 一日の借り賃が六千円。期間は五日。それに別途、保険料が掛かる。

 私の両親は既に他界していて、故郷に残った兄夫婦が実家を継いでいた。

 兄の厄介になるのは心苦しかったから、町の民宿を予約した。

 素泊まり四千円。

 自分の生まれ故郷に居るだけで自動車の借り賃と宿泊費あわせて一日一万円もかるという事実にちょっと戸惑うが、まあ仕方ない。

 今年で五十二歳。高校卒業と同時に東京に出て、もう三十四年目だ。

 地元には高校が無かったから、中学を卒業すると下宿をして県庁所在地の高校に通った。その三年間も含めると、町を出て三十七年という事になる。

 故郷ふるさとの町にとって最早もはやわたしは他所者よそものなのだなぁ、と、しみじみ思った。

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