サンタからの最初で最後の特別なクリスマスプレゼント

影神

雪が降りしきる夜


私はごく普通の家庭で育った。


母は私が小さい頃から病弱で、一緒に出かけた記憶等はない。


父はいつも帰りが遅く、休日も休まずに働いていた。


イベント事は特になかったが、近くなるに連れて


母がただ泣きながら私に謝るのでそれらが嫌いだった。


とくに家族団欒というものはなかったが、


母がいて父が真面目に働いて居ればそれで良かった。






しかし、普通の家庭とやらは長くは続かず、


それは突然とやってきた。






呑んだくれの父と心も壊れてしまった母。そして私の3人家族。


普通の家庭という生活が送れていたものは今や過去となり、


家は酷く貧しくなってしまった。




あれは、小学校6年生の冬休みの時の事。




父は長年勤めていた会社で急にリストラにあい、


以来ギャンブルと酒に溺れるようになってしまった。




それから私は学校には行かず、ずっと母の介護をしていた。


学校が嫌いな訳ではなかったが、


母は自分のせいで、父が壊れてしまったと考え、


自暴自棄になり、心も壊れてしまった為、


どうしても母の元を離れる事が出来なくなってしまった。


だが、本当は学校の人間関係に嫌気がさして、


母の介護を名の元に行かなかっただけだった。


勿論介護はちゃんとした。


介護と言っても簡単なお手伝いと、話し相手ぐらいだたが。




学校も別に無理に関わろともしてこなかったし、


公の場もめんどくさいことなので口を出してはこなかった。




父はというと元々病弱な母の為に休まずに働いて、


母を入院させる為に必死になって貯めたお金を、


当たりどころのない気持ちの掃溜めとして、


瞬く間に使い込んでしまった。






そんなこんなで年は過ぎ今、私は実質中学校3年生である。


中1の頃には母の貯金が底をつき、どうにもならなくなり、


社会的には働いてはいけないのだが、


家の事情で、母のお姉さんのお弁当屋さんに


お手伝いとして働かせてもらっている。


賄いが出て食費が浮くし、お金がないので非常に助かっている。


私は母とは違い身体が丈夫なので、特に問題もなかった。


家賃等の支払いが滞ってしまっているが、


あと少しで給料日なので何とか支払いが出来そうだ。


そんなことを考えながら、バイトを終え家路を急ぐ。




歳を越えて来年こそはと。


父がまともになってくれると願って早3年。


そんな日はいっこうに訪れることがなかった。




去年は殆ど雪が降らなかった。


だが、年明け今月に入って


遅れを取り戻すかのように雪が降りしきる。


私は寒さで段々と足が早くなる。


ちょうど信号を渡ろうとしたら赤になってしまい、


止まろうとすると横に歩道橋があった為、私は階段を登った。


辺りはすっかりと暗くなり、クリスマスのイルミネーションが


忘れないでとばかりに木に巻き付いて光っている。




私はふと向こうから来る黒い影に目を凝らす。


「シャリンシャリン」と音をたてて徐々に近づいてくる。


ふいに車のライトに照らされてそれは姿を表す。




首輪を付けた猫だった。




その猫は音をたてながら軽快に歩く。


私はそれがとても可愛く思え、何故だかとても楽しかった。




ふとした小さな幸せに少し嬉しく思い階段を下りようとすると、


私は脚を滑らせ私の視界は夜空を見上げた。






気がつくと目の前には古い病室が見える。


そこには女の人が居て隣には男の人が女の人の手を握っていた。


男「頑張ったな、あの子が大きくなったら、


一緒に毎年旅行へ行こうな。」


女「そうね、家族皆で仲良く、


沢山の思い出をつくりましょう。」




それを見るとだんだんと病室が遠くなり、周りが暗くなる。




次に気がつくと目の前にはさっきの男の人が


医者らしき人と話している。


男「どうしてだよ、あいつがなにやったってんだよ、


医者なら治してくれよ!!!!」


医者「医者は残念ながら万能ではありません。


奥さんはお子さんを産むために栄養を沢山与えたため、


自分の栄養や、免疫が落ちてしまっている状態です。


お子さんの身体が弱かった為、機能的に丈夫になるよう、


母子の限界を越えて、子供を守ろうとしたのです。


奥さんが子供を守ろうとしたように、


次はあなたが守らなくてどうするんですか。


あなたの支えが彼女の薬となることだってあるんですよ。


あなたが取り乱したら奥さんは誰が守るんですか、」


そういうと、男は膝を付き泣き崩れる。




そしてまたフェードアウトする。




次に気付くと若い女の子が向こうから歩いてくる。


辺りはイルミネーションが寂しそうに光っていて


車のライトが当たり、眩しく思う。




その映像でボーッとしていた頭がドクドクと


熱を持つように熱く感じるのがわかった。


「私、転んじゃって、、」


辺りは真っ暗で何も見えない。




2つの映像が何故だか懐かしくも思い、


それと同時に涙が溢れ出てくるのを感じた。


「帰りたい。お母さん、お父さん、、」




すると、何処からか鈴の音がする。


「シャリンシャリンシャリンシャリン。」


目の前には歩道橋で見た猫がいた。


猫は毛ずくろいし、私を見つめると奥へと進んだ。


私は付いてこいと言われたように思い、


猫の後ろ姿を見失わないようにあとに続く。




すると、またあの映像が見えた。


私はふと脚を止めてそれをみる。




歩道で男子高校生が歩いている。


すると目の前を首輪を付けた猫が通りすぎ、道路に飛び出した。


猫は車の音でびっくりして動けなくなっているようだった。


それを見ていた男子高校生は直ぐに走って猫を抱く。


間一髪猫は引かれずに済んだ。


男は猫に「飛び出したら危ないぞ」と


頭を撫でていってしまった。




それを見て私は疑問に思った。


何故なら首輪が


今、私の目の前にいる猫が


つけているのと同じだからだ。




ふと猫を見ると、猫の姿がなかった。


「ねこちゃん、ねこちゃん、」


呼ぶも返事はなかった。




すると、遠くから明かりのようなものが見えた。


私はそれが何故だか暖かく感じ、光の方へと進んだ。




そして私の視界が眩く光ると、


気付くと私の視界には父と母がいた。


私は泣きじゃくり二人に抱き付いた。




私は病室のベッドの上に居た。


階段から滑り落ちて、救急車で運ばれたそうだ。




話を聞くと、父が外で呑んでいると


何故だか目の前に首輪を付けた猫が現れ、


そしてそれが、昔助けた猫に似ている事に気付いた。


猫は父を見ると歩き初め、父は懐かしく思い猫を追いかけた。


気がつくとすっかり酔いは覚め、病院の前に居たと言う。




母も何故だか目の前に首輪を付けた猫が現れ、


それを抱くと、身体が軽くなり、


そしてふと私が産まれた病院に行きたくなったそうだ。


病院に着くと、そこには父が居て、


父は母の姿を見るなり「ごめん」と謝り、

強く抱き締めたという。




すると、救急車が来て、中から私が出てきたという。




私は夢のような話を2人に告げた。


そして、私のせいで母が身体を壊してしまい、


家庭を壊してしまったことを2人に謝った。


父と母は優しく抱き締め、皆して泣いていた。




私の怪我は普通では考えられないぐらい早く治った。




そして、3人で家へと帰った。


帰り道に段ボールに入っていた捨て猫がいた。


猫は3匹居て、何れも何故かあの猫に面影が似ていて


私はお母さんとお父さんにお願いした。


お父さんとお母さんは恩返しも兼ね家で飼うことを許してくれた。






帰りながら名前をそれぞれ考えたが、


皆同じ物がひとつだけあった。それが






『さんた』






小さな小さな初めての私のプレゼント。


贈り物の意味も込めて。






私達はあの猫のおかげで、幸せなの家庭へと変わる事が出来た。






私は嫌な事も沢山あるが、高校にはきちんと行き、


お母さんとは買い物にしょっちゅう行くようになった。


お父さんは慣れない仕事で大変みたいだけれど、


休みの日は皆で出かけに行くのが楽しみみたい。




勿論猫も一緒にお出掛け。




来月は皆で一緒に温泉へ旅行に行ってきますっ!


楽しみっ






お母さんとお父さんと私と猫3匹の大好きな家族。








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