第八十八話 氷の中


 ある釣り人が、山にある湖にワカサギ釣りに向かった。



 その年は寒くなるのが早く、しかも気温が低かった為に、湖の氷はかなりの厚さになっていた。


 そうして、いざ釣り用の穴を開けようと場所を探っていた時……釣り人は氷の中に妙なものを見つける……。

 よくよく目を凝らしてみれば、何と……着物姿の女性が凍り漬けになっているではないか……。


 釣り人は大いに慌て携帯電話を使おうとするが、圏外。しかし、釣り人にはそれ以上はどうにかすることも出来ない。



 麓の警察を呼びに向かおうかと迷っていたその時……氷の中をすり抜け着物の女性が浮かび上がる。

 女性は釣り人が驚き戸惑っている間に立ち上がり、ニコリと笑い掛けて去っていったそうだ……。


 一瞬、白昼夢を見たかと思った釣り人……しかし、氷上には草履で歩いた跡がはっきりと残されていた。



 それが幽霊か、妖の類いか、山の神かは判らない。

 ただ、その日のワカサギ釣りは大漁だったそうだ……。


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