第七十六話 電車


 少し残業を熟した会社からの帰宅時──新入社員の男は電車に揺られながら窓を流れる景色を見ていた。



 列車は各駅停車。男の座った位置は、止まる度ホームのベンチが見える。



 何駅か通過した時、男はちょっとした違和感に気付き改めて注意深く観察することに……。

 すると、次の駅で違和感は恐怖に変わる──。


 駅のベンチには女子高生らしき姿。前の駅も、その前の駅もベンチには女子高生が座っていたのだ。


 しかもその姿は全て同一。紺のブレザー、チェック柄のスカート。テニスラケットのケースには赤い何かのキーホルダー。髪はポニーテールで眼鏡をかけていた。


 念の為もう二、三駅確認して見たが全て同じ姿……。

 少女は男の視線に気付いたらしく、何故かニコニコと笑っていた。それがまた二駅程続く。


 怖くなった男は、人が多く降りる大きな駅を選び人混みに紛れて下車。そのままタクシーで帰宅した。



 それ以来……駅でラケットケースを持つ女子高生を見掛けると、男は思わず距離を取るようになった……。


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