第六十五話 古井戸


 とある寺の敷地内には曰く付きの古井戸がある。


 その井戸は地獄に通じているという伝承があり、厳重に鉄格子の封がされていた。



 ところが……噂を聞いた大学生が恋人を連れて寺に忍び込み、あろうことか鉄の錠前を壊し格子を開けてしまう。

 そうして覗いた古井戸の中……井戸の底には何やら蠢く者の姿が……。


 それは子供程の大きさの、痩せて腹の出た鬼だった。



 これに慌てた大学生は急いで格子を閉めようとしたが、無理に抉じ開けた為に歪んで封が掛からない。


 そうこうしている間に井戸を登り上がった小鬼は、井戸から出ようと格子を掴む。


 必死に押さえる大学生……そこへ恋人の悲鳴を聞いた寺の住職が駆け付け経を唱え始めた。

 やがて小鬼は井戸の底へと引き返して行った……。


 寺の住職は鎖を使い固く封をした後、大学生達を本堂に連れて行く。


「あの井戸は本当に地獄に繋がっています。何処か触られていませんか?」

「い、いえ……」

「それは良かった……あれに触れられると死後の魂は地獄に引かれてしまうのです」


 そういった住職は二人に切々と聞かせた。


「この世とあの世は区切りがあってこそ意味があるのです。あれを開いたら繋がって溢れだしてしまう。意味は分かりますね?」


 大学生は住職に何度も謝罪し、帰っていった。


 その後、大学生は所々でその小鬼を見ることになる。住職に相談すると、『それはどうすることも出来ない』とだけ告げ鬼避けの数珠を渡してくれた。


 見えるようになっただけでは何が起こる訳ではない。しかし、今後一生それを見なければならないのかと思うと、大学生は後悔してもし足りなかった……。


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