第六十三話 借家


 その借家は幽霊が出ると有名だった。


 何でも、夜寝ていると女性の啜り泣く声が聞こえるのだという。


 家賃の安さに何人かの者がそこで暮らしたが、皆一週と持たず引き払うことになる 

 中には気が触れてしまった大学生もいたらしく、長らく借り手が付かない状態だった。


 だが……どんな所にも猛者はいるもので、家賃の安さを気に入りそこで暮らし始めた男がいた。


 これで借り手が付くと喜んだ不動産屋だったが、十日程で男が音を上げる。


 不動産屋に来た男はこう口にしたという……。


「あれは見えた、聴こえたのレベルじゃない……あそこはあいつらの腹の中だ。アンタも泊まって見ればわかる」


 ひと月分の家賃を叩き付けた男は、虚ろな目でそのまま姿を消した。


 結局……恐ろしくて取り壊すことも出来ない借家は、まだ空き家として残されている。


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