第四十五話 奇祭


 地方の風習の中には謂れの良くわからない奇祭が存在する。そんな奇祭の歴史を知ると驚かされることもある。



 その地方の祭りは褌姿の男達が神を祀る社までの山道を走り回り、各所に待ち構えている社掌に叩かれるというものだ。


 叩く道具は樫の木から削り出した棒……形状もやたら出っ張りのある作りで、叩かれる男達は血が出たり痣が出来たりと散々な目に会う。

 そして最後はその棒を神に奉納し豊穣や家内安全を祈願するのだ。



 ある日……その棒が奉納された神社の蔵に足を踏み入れた賊が居た。

 歴史ある神社の為どうやら美術品を盗もうとしたらしいが、犯人はあっさりと逮捕された。


 しかし……逮捕されるに至った理由を語る犯人の証言は、荒唐無稽な話だった……。


 神社の品を盗みに来たところ、何やら声がしたので覗いてみた──すると中には、一つ目で、腕が三つある、着物を羽織った大女が、奉納された棒を大事に抱えていたのだという。


 当然信じない警察だったが、犯人の言葉の続きを聞き考えを改めることになる。


「嘘じゃねぇよ!俺が捕まったのはその化け物に棒で散々殴られたからだ!嘘だと思うならこれを見ろ!」


 そう言うと犯人は突然服を脱ぎ始める。

 その全身には棒で叩かれた痕がくっきりと残っていた……。



 後日──警察がその話を宮司に伝えると、何故か妙に納得している様だった。   


「この山の神は姫神で、一つ目、腕四本だったのです。昔……化け物から人間を救った際、山神様は腕を一つ無くされたと伝わっています。あの棒は男性器を模した物と言われていて、古い時代には救って頂いた礼に男が生け贄になったと言われています。この山は女人禁制なのですよ……姫神様が嫉妬しますから」


 山神様はまだ居られる……そう言った宮司は犯人を祓いに向かった。


 その年は周辺一帯、大きな災害もなく果実も豊作だったという……。


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