第四十三話 古書



 ある男が古本屋で小説を購入した。



 その本は多く再版されて居るが、その殆どが改訂されていて内容が原作と異なると言われていた。

 そんな幻の原本……しかも初版とあり、高値を払い何とか購入することが出来た。



 本の内容は確かに改訂版と違うもので、夢中になった男は作品に新たな楽しみを感じながら本を読み進める。


 と……あるページを開いた時、一枚の紙が手元から落ちる。



 どうやらそれは本に挟まれていた様で、良く見れば古い栞であることが分かった。 


 何気無く栞を確認すれば、そこには何やら数字が……。

 それはどうやら暗号の様で、男の興味はそちらに移り読書を中断。かつての持主の遊び心に感心しつつ、暗号を解く為に思索を廻らせる。


 本に挟まれていたならば、本に関係するのでは?そんな男の推測は見事的中……書かれていたのはページ数字、何行目、何文字目というありきたりなもの……。


 そうして繋げた言葉に男は凍り付く。


【か・絵・背・。・頃・巣・ぞ】



 返せ?殺す?意味がわからず混乱する男。誰かの悪戯に違いない……だが、男は急に本の続きを読むことが怖くなってきた……。


 そこで古本屋に向かい本の売り主を確認することにした。


 男の話を聞いた店主は、困った表情を浮かべこう語り始めた……。 


「あの本は作者自身が持っていたもので、家族のいなかった作者の死後に親類が売りに来られた物です。ですが、何故か買い手が付いても後々戻って来るんですよ」

「その親類は?」

「何ぶん昔のことでして……」

「そう……ですか……」


 続きが読みたいという欲求と得体がしれないという不安が鬩ぎ合った男は、結局続きを読むことに……。


 本の続き……その内容はスッキリしない至って半端なもの。

 そして最終章に差し掛かろうというところで、再び紙が挟まれていたことに気付く。


 そこには、赤い文字で人名がビッシリと書かれていた……。


 最初は作者の名が、それ以降は若干聞いたことのある評論家の名前がチラホラと書かれていたのである。


 その中に自分の名があったことに非常に驚いた男……ここで何かを感じ取ったらしく、男は古本屋に小説を返却することに。


 返却の際、赤文字の人名の話を店主にしてみたが知らないとのこと。だが、書かれていた人名を聞いて何やら青ざめ始める。


「そ、それは、今まで買っていった人の名です!」


 店主は古い本に保証を付けて販売していた為に売り主の幾人かを覚えていたと言った……。


 流石に気味が悪くなった店主は、寺に供養を依頼し本を手離すことにした。



 だが……男は覚えていた。自分の名の下にはまだ書かれた名前が続くことを。



 ひと月後──寺の住職の訃報を知った男は、不謹慎にも自分の選択の正しさを神に感謝したという……。


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