第四十話 階段


 昔、安アパートに住んでいた頃……階段の音に悩まされたことがある。


 部屋は階段付近の二階角部屋。外付けの金属製階段を上る音は確かに響くが、慣れた為か普段はあまり気にならない。 


 だが、ある時──ふと夜中に目が覚めた。


 時間は午前二時を半ばまで過ぎようとしていた頃……。流石に早過ぎる時間の為に目を閉じていると、階段をカツン、カツンと上る音が……。


 こんな時間に戻ってくるなんて夜勤は大変だなと考えていたが、どうも様子がおかしい。階段を上る音は今度は下りているのだ。


 それが延々と上り下りする音はいつまでも止まず、結局気になって寝不足になってしまった。


 翌日は大丈夫だろうと思っていたのだが、またもカツン、カツンと始まった。時間は午前二時から三時まで。それからは毎日気になって眠れない。


 一週程が過ぎた頃、流石に困まり果て管理人に相談すると防犯カメラを設置してくれることになった。


 そしてその翌日。やはり階段を上る音が……。



 カツン。カツン。カカツン……カツン……。



 不規則に上り下りする音は止まず朝まで続いた。



 翌日……管理人と二人、防犯カメラを再生し犯人を確認することになった。安眠妨害で裁判まで考えていたのだが、そこに映っていたのは五歳くらいの少女だった……。


 あまりの事態に管理人は警察に連絡。その少女は一階の住人の子らしく、夜中の徘徊にネグレクトを疑ったのである。


 しかし──話は更に予想外の方向に……。


 防犯カメラに映った少女は、虐待により既に亡くなっていた。警察の調べでは死後一週以上は経過していたらしい。


 少女は誰かに見付けて欲しかったのかもしれない……そんなことを思うと寝不足の恨みも忘れ、やりきれない気分だった……。


 だが……それからも階段の音は消えず、カツン……カツンと毎晩聞こえ続ける。流石に堪えられなくなり、とうとうアパートを引っ越すことにした。 



 あの音は今でも続いているのだろうか……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る