第四十一話 風船
高校の同窓会。会場の料亭へと向かうも、週末ということもあり街は大変混雑していた。
そんな状態ならば車より徒歩の方が速い。そう判断し、タクシーから降りて雑踏の中を歩くことにした……。
しばらく行くと懐かしい同級生と道端で再会。思い出話に花を咲かせながら歩くことになった。
昔は良かった……というのは回顧主義な気もするが、思い出は美化されるのが世の常。
そんな会話は、やがて担任の木田教諭の話題になった。
「木田先生、病気で入院しているそうだぞ?」
「じゃあ、今日は?」
「参加しないってさ。先生の奥様から同窓会幹事に直に電話があって、実に残念がっていたそうだ」
担任教師の木田は教育熱心な男で、生徒達に慕われていた人物。参加しないことは元生徒達も残念がることだろう。
そんなことを考えつつ更に歩くと、ビルの谷間に浮かぶ丸い物体が……。
「なぁ……何だあれ?」
「ん?ああ……風船みたいだけど……」
フラリフラリと漂う丸く白い物体は、確かに風船の様にも見える。
しかしそれは、ビル風に晒されながらも飛ばされることなくゆっくり移動していた。
風船が近付くにつれ分かったことだが、周囲の者達は全く気付いていない様だった。
「…………なあ?」
「ああ。あれ……風船じゃないよな」
「あれって……ひ、人の頭か?」
近付く程にハッキリとし始めた風船は、髪こそ無いが明らかに人の頭部。
だが更に驚いたのはその顔だった……。
「木田先生……」
それは入院で同窓会に参加出来なかった木田教諭の頭部……。
「お、おい。木田先生に何かあったんじゃ……」
「れ、連絡先知らないぜ?」
「同窓会の幹事なら知ってるだろ。急ぐぞ」
それから料亭に駆け込み同窓会の幹事から連絡先を聞いた二人は、急ぎ連絡を入れた。
結論から言えば木田教諭は無事。木田の妻の話では、入院はしたが命に関わるものではないとのこと。
ただ、その日は本当に残念がっていたという話を聞かされた。
「……そんなに来たかったんだなぁ、木田先生」
その話を聞いた元生徒達は、改めて木田教諭退院後に飲み会を設定することにし大変喜ばれた。
以後も、木田教諭は元気に教師生活を続けている。
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