第三十六話 河童


 ある男が沼に魚を放した。魚は生態系を荒らす外来魚。男は環境を破壊すると知りながら、自ら釣りをする為に放流したのだ。



 しばらくして男が沼で竿を振ったが、一向に目当ての魚は掛からない。数が少なかったのだろうと次はもっと多くの外来魚を運んできた。



 そんな男が魚を放そうとした瞬間、沼から出て来た手に足を掴まれ引き込まれそうになる。

 その手は泥塗れでヌルヌルとしていたが、どうも違和感がある。良く良く見れば指は四本……それに水掻きが付いていた。


 男は手を辿りその主の姿を確認した。水の中からズルリと現れたのは人型としか形容しようがないもの。何せ全身泥塗れ……肌の色も髪があるのかも判らない。


 ただ……その目だけはギョロリと浮き出ていたことが男の恐怖を煽り立てた。


 泥人間はペタリペタリと沼から上がると、男に泥を飛ばしながら言葉を発する。


「ぞれ、うまぐねぇ……ほがのざかな、くうから、くうもんなぐなる。べづのもっでごい」


 男は絶叫し逃げ出した……。


 車の中に逃げ込んだ男はそのまま自宅へと逃げ帰る。

 足には確かに掴まれた跡……だがそれ以上に驚いたのは、車のリアガラスに付いた泥の手型。水掻きの手が一面に残っていたのだ。



 それ以来男は釣りをしなくなったという……。



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