第二十六話 声



 私の幼い頃の記憶には不思議なものがある。



 家は古い平屋建て。押し入れの中に入って遊んでいると、いつの頃からか何かが耳元で語り掛けてくる様になった。


 その声は囁く様に語り掛けてくるが、何を言っているのか分からない。そもそも聞いたことがない言語なのだ。


 せめて何を言っているのか知りたくて母親や祖母を押し入れに呼んで確認してみるも、母親達には囁く声さえ聞こえていない。

 何度聴こえると説明しても埒が明かず、とうとう怒られてしまった。



 その後も時折その声が聴こえたが、やはり意味を理解することは出来ない。不思議と怖いものとは思わなかったので、互いに一方的な会話を繰り返した。


 こちらが語り掛けている間は黙っていることから、会話をする意思はあったのだろうと今更ながら思い返す。


 物心が付く頃には、もうその声は聞こえなくなって寂しかったことを覚えている。



 古い家は建て直され、もう二十年以上立つ。だが、あの声は二度と聞くことが出来なかった……。


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