第十二話 蛍


 死者が蛍となり帰ってくるという話がある。それは人の魂だけではなく、他の生き物も含まれているのではないだろうか?



 とある愛犬家Hは、夜の散歩を日課としていた。


 必ず犬を一匹は家に迎えるH。勿論、幾度も愛犬の死を看取って来た。


 前年に愛犬を失い悲しみに暮れつつも新たな仔犬を譲り受けたHは、その日も日課の散歩を行っていた。それは秋口に差し掛かった肌寒い日だった。



 そんな散歩の途中、Hは一匹の蛍が漂い飛ぶのを発見する。


 その地域は六~七月頃には蛍が飛ぶ場所で、その日はもう九月。不思議に感じ眺めていた蛍は、やがて仔犬の頭に着地した。Hはそのまま散歩を続けたが、蛍はじっと動かなかったという。



 帰宅後、仔犬を家に入れたHは蛍を元の場所に戻そうとその手に包んで家を出た。すると指の隙間から飛び立った蛍が近くに放置されていたゴムボールに何度も止まり、そして天高く昇って消えた。


 そのボールは前年に死んだ愛犬のお気に入り。Hは愛犬が蛍になって戻ったのだろうと涙が止まらなかったそうだ……。

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