アンニュイには程遠い

「むぅ」

ヘビクイワシは、木々の生い茂る森林のど真ん中を歩いていた。その最中で愛用し続けたメモ帳の最後の1ページにペンを走らせ、たった今出会ったフレンズについて書き留めた。

ヘビクイワシの目の前で踊り狂うフレンズの名前は、オオフウチョウ。


「全身に鮮やかな羽が着いており、踊る事が好きである。カンザシフウチョウ君、カタカケフウチョウ君とは友人関係にあり、行動を共にすることが多い…と、あら、メモ帳が無くなってしまいましたね、またピーチパンサー君の所に買いに出かけなければなりませんね」

と、独り言をこぼすと、


「メモ帳をまるまる1冊使い切ったのね!

めくるめく出会いを書き留め次の記録媒体かがやきに託す…これもまた運命!」

…とオオフウチョウは言った。オオフウチョウの言い回しはよく分からないものだ、ヘビクイワシは引くように笑った。

そしてオオフウチョウの口から一言一句が放たれる度に記録衝動と恐ろしさを痛感する。

この摩訶不思議なフレンズを記録するにはメモ帳が何ページほど必要だろうか、と手持ち無沙汰な自分を皮肉るように思った。


このパークのフレンズは皆が個性的で、中には自らを没個性だと揶揄するけものもいるが、メモに書き取り、話し、そして関わると断じてそんな事はなく、むしろ没個性などという端的な言葉で言い表す事の出来るフレンズに出会ってみたいと思うほどであり、没個性という言葉は自らの個性に気づけないフレンズが自らを卑下する為に生まれた言葉なのでは無いかと勘ぐる程だ。


「ピーチパンサーの店に行くのね!私も同行するわ!」

「えっ、ですがオオフウチョウ君、君は何か用があってここに来ていたのでは無いのですか?」

「用なんてないわ!ただ運命の移り変わりを表現していただけ!」


改めて、…このフレンズは個性的すぎるな、と、

訝しんだ。


2人がピーチパンサーの店についてみれば

新しいメモ帳は足早に手に入った。


手渡された新しいものは青いい装飾がついていて見ているだけでも気分がいい。


「ありがとう、ピーチパンサー君」

新しいメモ帳を受け取ってヘビクイワシは会釈をした。


「いえいえ、そういえば、オオフウチョウさんはどちらに?」

ピーチパンサーはそう言った。

気づくと、オオフウチョウの姿は消えていた。当たりを見回して探してみるが、

その姿は見つからなかった。


「オオフウチョウ君、どこに行ってしまったんでしょうか」

「……さあ?」




オオフウチョウは、踵を返し木々の生い茂る森林を歩いていた。


全てのページに文字かがやきが書き込まれたヘビクイワシのメモ帳を手に取って、


唐突に立ち止まって

彼女が一心不乱に踊り狂うと、

それに引き寄せられたようにセルリアンが

氾濫していく、


彼女の手の中の輝きを求めて、

セルリアンが群れてゆく。


「めくるめく運命を祝して踊りましょう!

変わりゆく世界を願って踊りましょう!


今日を生きる生命に歓喜を!

受け継がれる輝きに祝福を!」


セルリアンが次から次に砕け散る。


このジャパリパークにて、

とびきりの輝きを求めるセルリアンは

必ずある鳥のフレンズに出会うという。


その鳥の名はオオフウチョウ、

輝きを持つけもののもとに現れ、

輝きを引き連れて何処かに飛んでいってしまうのだ。


セルリアンを引き寄せ、

セルリアンからフレンズを守る為に、

彼女は輝きを背負うのだ。


「退屈とは程遠い人生に幸運を」

彼女は好んでその言葉を口にするという。

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