ただいま理想郷、改装中につき
高山地帯にて
個人規模の人災としてはかってないレベルでの被害が出ていながらもフレンズによる
「なあ…隊長?今からでも帰っていいか?」
「まあまあそう言わないで…帰ってきたらジャパまん手作りキッttttttttttt」
その時ブチンと機械がダメになる音を上げて、ムセンが息を引き取った。
「おい隊長?隊長?…おい?」
言葉の続きは聞こえない、そしてムセンから漂う僅かな焦げ臭い香りが応答を諦めさせた。ラッキービーストといい、キカイの類はこの匂いがすると返事をしなくなると相場が決まっているのだ。ツチノコは一本下駄で登山させられている現状もあまり気乗りするものではないが、何より恐ろしきは山の頂きに見える
さて、山登りでいよいよ体も冷えてきた。首も軽くなり、耳も本格的に事の重大さと音響の苛烈さを捉え始めたという頃合である。ツチノコ自身もさていよいよ覚悟を決めねばなるまいかと思ったさなか、ピタリと合唱が止まった。逆に怪しく思ったツチノコは身をすくめ地を這うようにゆっくりと、だが一歩づつ確実に音の中心に近づいていく。
「ふう、この辺で一度休憩しましょうか」
そう言い、クロトキが地面に座り込んだ。
「むふ、そうね、もうずっと歌いっぱなしだもの、流石に疲れちゃったわ」
そう言ってトキが身体を崩す。
「ホント!カラオケボックスと違って声が響かないからつい声を出しすぎちゃうんですけど!」
そう言うとショウジョウトキがばたりと倒れ込んだ。
「最近はずっとあそこに入り浸っていましたからね、改装が終わるまで歌の練習はお休みにしても良かったですけど…」
「新しくなってから思いっきり歌いたいもの、カコ博士から貰った貸切券もあるし、日頃から喉のトレーニングは欠かせないわ」
「それにしても聞いてくれるファンが居ないというのは寂しいものですねえ…誰かいてくれたらやる気も上がるんですけど」
と、少し寂しげにこぼした。
「ムフ、今度ジャパリ団の皆でも連れてこようかしら」
「2人とも、お水、持ってきましたよ」
クロトキがそう言ってペットボトルにはいった水をこしらえてきた。
「ありがとう、クロトキ、水を飲んだらもう1回通してみましょう」
「そうでぶね!」
「ショウジョウトキ、水を飲みながら喋るのはやめたほうがいいわ」
と、パッと見た限りはとても和やかなムードに感じられるのかもしれないが
かたや聞き耳を立てていたツチノコはもれなく恐怖に震えていたのである、今すぐ止めなければ不味いという本能が彼女の身体を動かした。勢いに任せ体を乗り出した
「よ、よう!」
とあからさまに無理のある登場をしたツチノコであるが彼女らは来客に行為的であった。
「あら、私のファン?」
「私の歌に惹かれてやって来たんですね!」
「丁度これから歌おうと思ってた所なんですよ!」
と遠回しな死刑宣告を受けたがツチノコはなりふり構わずに
「あ、ああ…それについてなんだがな?カラオケボックスが使えなくなったって聞いたから…いい所を紹介しようと思ってやって来たんだ」
それを聞いて三人娘は期待を寄せる
「いい洞窟があってな、ちょっと暗いけど…声がよく響くんだ、オマケに湖もあってな?地底湖って言うんだが… 」
有耶無耶になった挙句に出した苦肉の策なのは間違いないが幸運にも彼女らはそれをお気に召したようで、一度案内して、鼓膜が十四枚敗れる程歌い倒すと「気に入ったわ」と太鼓判を押してくれた。
こうして高山地帯の悪魔の噂はなりを潜め、パークに平和は戻った。
それとは別にパーク内のとあるトンネルがこっそりと立ち入り禁止区域に仮指定されたのはまた別のお話
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