わたあめ
ある日の事、
なかべちほーの広い広い水辺を揺蕩いながら流れるように彼女は生きていた。
天気はべらぼうに快晴で雲もどこか遠くに行ってしまったのか思うと少し寂しくなる。
彼女はあてもなくやることも無いので、この前の体力測定は楽しかったなあと思い返していた。クロサイは愉快で、名前はなんといったかピンクの髪をしたパークガイドもいい人で、お友達のメキシコサラマンダーちゃんもいた、とても楽しかった。と素敵な思い出を脳裏に巡らせるだけなら幾星霜の時間を費やしても足りはしないだろう。だが素敵なだけなら幾億万の時間があったとしても物足りなく感じてしまうものなのだ。
地面に足をつき酸素を身体中に浴びてみれば世界が変わった感じがする。
もっとも今の体にエラは着いていないのだが、人の体になれども体の奥底から空気を吸い上げる感覚は未だ失われず、
トコトコと柔い地面に足を踏みしめ歩いていると
「やっほ!」
と歩いてくるメキシコサラマンダーちゃんを見つけた。隣にはオオサンショウウオちゃんも一緒だ。
二人を見つけられた事も嬉しかったが、私は二人の手に握られている木の棒と、先端に着いた桃色の綿のような物が気になった。
「ん?オオサンショウウオちゃん、それどうしたの?」
「ん…ああ、これはわたあめっていって、ジャパリ夜市で貰ってきたんだよ」
「さっきふたりでね、行ってきたの!そうだ、コイちゃんも食べる?」
その言葉を聞いてパァと表情が明るくなり、尾びれが少し跳ねた。
丁度いい広さの岩山にちょこんと三人座るとひとくちどうぞと差し出されたのでありがとうと一言返してわたあめに齧り付いた。これがどうして甘さが口の中に広がるものだから感想も出ず、ただ幸せを傍受するしか出来ないものだ。二人も幸せそうに噛み締め、思い思いに感想を述べ合う、いよいよ最後のひとくちとなった所でメキシコサラマンダーちゃんが最後にどうぞと差し出してくれた。
「あっ」
という間に手を滑らせ、わたあめを水面に落としてしまった。
少し甘い、三人の時間。
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