今日もここはジャパリパーク
モノズキ
口癖
いつという日でもないある日の夜の事、
売り子職員は自分よりも頭一つほど体躯の大きいコディアックヒグマを見上げながら震えることもなく、だからと言って自分を押し殺すことも無く、いらっしゃいませと帽子の唾を持って軽く会釈し、頭を下げた。その際に動作に反って跳ね上がるポニーテールが彼女のありのままを感じさせ、それはコディアックヒグマの目には少し愛おしく写った。
「すいません…ちょっといいですかね」
コディアックヒグマは売り子職員に合わせて身体を少し屈め、見かけのような女の子には少し合わない低くぐもった声で話しかけた。
どうしましたかと売り子職員が顔を向けるとコディアックヒグマはずいと顔を近づけ、見詰めるような仕草をしたが、少し相手が驚いているような仕草を感じ取り、慌てて身体を後ろに仰け反らせた。
「わあすいません、つい」
売り子職員は慌てながら大丈夫ですよと手を振り、笑顔を見せた。
コディアックヒグマも同様に慌てながらも落ち着きを取り戻し、呼吸を入れ直した。
「実はお土産に悩んでいまして、私と同じようなクマの子なんですけど、喜んで貰えそうな物を探しているんです、できるなら大きいものが好きなので…なにかオススメ…とかありませんかね、ええ」
うむ、
と、少し間を置いて売り子職員はそれならこちらはどうでしょうとどこからかいくつかのジャパまんが入った木箱を持ち出してきた。
だがそのジャパまんはいつも見知ったものよりふた周りほど大きく、のの字も大きく描かれている。
「こちらはですね、ラーテルさんが提案した巨大ジャパまんという商品なんですけども、従来のジャパまんを驚きの300%増量で提供させて頂いております…まあ過剰なカロリーとかの問題から試供品止まりではあるんですけども」と、やや笑いで誤魔化すように物言いを済ませ、反応を伺うようにしていたが、コディアックヒグマは売り子職員には目もくれず、ジャパまんを見つめていた。
「でっかいですね、これ……これなら喜んでくれますよね…ええ、すみません、これ頂けますか」
とコディアックヒグマは好意的にそれを受け入れた。やったやったと喜びたい気持ちを傍らに話を済ませ、木箱を軽々と持ち上げ、コディアックヒグマはありがとうございましたと職員を真似て会釈をし、またそれに合わせて売り子職員も頭を下げた。
ずしずしと来る前より少し重くなった足取りと共にジャパリ夜市を後にする最中て、エゾヒグマの口癖が何分不思議に思うこと無く写っていたことに気づき、コディアックヒグマは少しだけ、ほんの少しだけ赤面した、
そんな休日である。
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