第4話 その悪役令嬢は知っている
この国はみにくいと思う。
婚約者の女性をないがしろにして、かわいらしい庶民的な女性を可愛がる王太子。婚約者の女性を、男を取られた可哀想な女、とクスクス笑う貴族たち。
それを咎めない国王たち。
「------よって、リリーラ・ロール公爵令嬢は王妃にそぐわず! 罪は重く! 改心は望めぬ! ゆえに、貴族法にのっとり断頭台の
私は知っている。
なぜ貴族法というものが生まれたのか。
魔力高く優秀な人物を王家に取り込むことに失敗した場合、これを危険とし、罪をでっちあげてでも断頭台の置かれた中庭にて、この首を切るのを正当化する貴族法。それがあるのはこの祭壇にて血を捧げさせることにより、知識を継承した王族にのみ使用可能な魔力球に魔力を充填させるからだ。
この力で他国を圧倒し、勢力を拡大し、植民地から労力と税をしぼりとることで、国が潤っている。
それを知りながら、無実の罪の人を助けることをしない貴族たちは、決して王家に歯向かわない。
国民もまた、事実を知りながら「国のためには仕方ない」と受け入れている。
この制度を変えようとした者が次々と血の祭壇に倒れたこと。
私もその一人であること。その、最後の一人だろうこと。
私は知っていて、隠していた。その気持ちを。
王家に嫁ぎ、王妃となって権勢を誇ったとき、私は血の祭壇の
それはすべて私の心のうちのこと。
それなのに、なぜ。
王太子に腰を抱かれる男爵令嬢は私の計画を知っていたのか。
《私知ってるの、あの人は、将来国を乗っ取ろうとしているのよ!》
なぜ私の部屋に、犠牲者たちの資料があることを知っていた?
なぜ、優しい女の子をうたいながら、植民地の民をおもんばからない?
この国はみにくいと思う。
だから、ごめんなさい。
幼い頃、屋敷を抜け出した先で泣いていた私に、美味しいお菓子と優しい手の温もりをくれたおじさま。
孤児を愛し、慈しみ育てる慈悲深い皆様。
お歌を歌ってくださった子供達。
ありとあらゆる、美しさを保った皆様。
許しを
「これより刑を執行する!」
私は知っている。
この術がいかに生まれ、いかな術式でもって動いているのか。
なぜ血であるべきなのか。
王家の秘儀を知っている。
私をひざまづかせ、許しを
私も笑顔を送りましょう。
しょせんは私もこの国の貴族。
それも、大いなる魔力をうけつぐ公爵令嬢。多大な犠牲を生み出してきたみにくい血族。
加害を笑ってできる者です。
巨大な斧が振り上げられたのを合図に、私は微笑んだまま気を巡らせた。
とたん、血の祭壇から閃光が走り、景色は白に隠される。聞く者は遠い植民地にしかいないだろうけれど、巨大な花火のようにドンと世界にこだまして、幾人かの
私は最後にあの者たちの驚愕する顔を見られて満足よ。
私は知っている。
この国の成り立ちを。
この国が奪った国を。
ここにあった別の国を。
その国で生きた人々を。
その国は魔力に恵まれず、しかし血に自然界の魔力を定着させることで魔術を行使していた。そのため自分だけの杖を国民一人一人が持っている国だった。
大きな力を持たぬその国を、力でもって制圧し、血の祭壇を作らせたこの国の行いを知っている。
もともと魔力を持つ者の血は、圧倒的な力をうみだした。
祭壇の力の最初の試し撃ち相手にされたのが、血の術を作る国の民だった。血の術が他国に知られることを防ぐために、一人残らず殺された。
だからこの国でその祭壇は《原理はわからないが、すごい力をもたらす神の祭壇》と認識されている。
私は知っている。
私は血の術を作る国の記憶をもって生まれてきた。
私は公爵令嬢の意識を飲み込んで、虎視眈々とその時を待った。
そのうち、情がわいた。
もし平和的に私が権勢を誇って改善するならそれもよし。
血を捧げさせられることになって、血の祭壇にたまった力を使って国を焦土に変えるもよし。
数百年の時を経て、私はやっと望みを叶えた。
私は血の術を作る国の女王だった。今はもう、名すら残っていない国。
生まれてからずっと心に復讐の炎を飼ってきた。
私の民を家族を殺し、笑った顔を覚えている。
あなた方によく似た顔だ。
その顔が驚愕に歪み、消えていくなんてとても愉快。
私はこれでも公爵令嬢。
他国を圧倒することに
一度の魔法で細かくひとりひとりを狙うことはできないけれど、指定範囲を破壊することは可能。
もはや植民地にも力ある支配者はいない。
今まで封じ込められてきた国々の時代がやってくる。
それでどうなるか分からないけれど、今よりはましになるといい。
私もいつかまた生まれ変わった時、心美しき者たちに復讐されるのだろうか。
その時はめいいっぱい驚きながら苦悶の顔で死んであげよう。
それで、あなたの心が満たされるなら。
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