第4話 マイペース

 他局が言うには、怪獣は突然変異の巨大イモムシが発見された、北陸からやってきたらしい。

 

 ネットにアップされた怪獣の情報に埋もれているが、今日がバレンタインデーだという記事が。


 その響きは外界とのつながりを遮断し、人は愚か女との接点を断ち切った、童貞ニートの憎悪を抱かせた。


 そうか……今日は、バレンがタインしてたのか……ハハ……ハハハハハハァ! 

 いいぞ、怪獣!

 もっと、もっと街をメチャクチャにしてやれ!

 バレンタインという風習を世の中から消し去ってしまえ!

 今日は記念すべき令和における「血のバレンタイン」だぁ!!


 2日後、怪獣騒ぎは終息を迎える。


 自衛隊が密かに開発した新型電波振動兵器「メーザー殺獣光線車」牽引型。

 強力な振動を起こす破壊光線で怪獣の細胞を、激しく震わせて分解させる。

 アルカイダやフセインもビックリの大量破壊兵器だ。

 どこにそんな物を隠し持ち、一体いくらの税金を防衛予算へ当てたのか不明だが、昔からパラボラアンテナの殺獣光線は、怪獣を倒す秘密兵器として知られている。

 この兵器のおかげで、怪獣はレンジのマイクロ波で肉を焼くように、あっという間にメーザーでチン!

 玄関開けたら2分で、ドカン! なのさ。


 兎にも角にも、テレ東が臨時ニュースを流さない限り、世界は終わらない。


 怪獣事件が終わっても、俺様の部屋せかいは何も変わらないが、世界は日々変化し国際情勢は第1次世界大戦の時よりも危険な綱渡りをしている。


 活発化するテロリストの破壊工作。

 エネルギーや資源の枯渇。

 大飢饉に食料難。

 いつ世界大戦が起きてもおかしくないくらいの、緊張状態だ。


 そんな混迷を上回るカオス状態が、まさか天空よりいでるとは、夢にも思わなかった……。


 昼のランチ時だというのに、不気味なまでに静かだった。

 

 すると、飛び立つ前のジェット機の真下にいるような、轟音が部屋中に響き、驚いた俺様はカーテンを開けて外を見る。

 

 窓から外を見ると、地平線が反転したように空が漆黒に覆われていた。


 こ、これは?

 巨大な…………UFO?


 家の屋根が巨大UFOの移動に伴い、推進力が大気に影響して、空気が震動して重くのしかかる。


 UFOはすでに制服した制空権を闊歩するように、ゆっくりと移動していき、ゆうに3分かけて上空を過ぎ去っていった。


 俺様はテレビをつけてリモコンのチャンネルをひたすらかえていく。

どこもかしこも、巨大円盤の生中継で持ち切りだ。

 なんとこの時間、子供向けバラエティを流すEテレが、放送休止になった。

 

 こりゃぁ、世界大戦どころか宇宙戦争に発展しそうだ。


 終わった……今度こそ世界は終わった。


 そんな中、唯一、通常番組を放送する局が。


 言わずもがな、テレ東だ。


 テレ東は昼の旅番組、『出発! ローカル線聞きこみ発見旅』を放送している。


 俺は旅番組を見ながら、このまま臨時ニュースが挟み込まないよう、祈った。

 こんなに旅番組を真剣に見たのは、初めてだ。


 普通なら蛭子義和が、たるみ切った身体を見せつける温泉で、酒を飲んでホロ酔いするシーンなど、蟻を踏み潰すくらい、どうでもいいのだが、今日ほど、その場面に精神を救われた日はない。

 そして番組は無事に終了した。


 よかった……世界は……世界はまだ無事だ!


 夜は株の情報番組。

 他局に遅れをとりながらも、テレ東は夕方のニュースで、巨大円盤をワールドトピックスとして放送した。

 ダウ平均株価は右肩下がりで、経済状態を示すグラフは、階段を踏み外したように下落。

 宇宙人襲来により経済は混乱状態。


 宇宙人が滞在し続ければ、世界大恐慌やリーマンショックを越える不景気に見舞われる。


 男性キャスターは誇らしげに声を張って原稿を読み上げる。


『国連は地球防衛軍を検討中とのことです』


 ついに人類軍は宇宙侵略者に反旗を翻した。

 あれだけいがみ合いや紛争が続いた国々が積極的に、宇宙人との闘いに名乗りを上げ、いつの間にか紛争していた地域までもが一丸となって、立ち向かおうとしている。


 この時代にこんな世界の一体感を目で見て肌で感じれるとは、この時代に生まれて良かった。


 そして決行日Dデイ

 宇宙人討伐には、人類が誇る科学技術の粋を結集した、戦闘機が活躍。

 広げた翼を気流に乗せて優雅に飛ぶトンビのように、飛行し、崖から飛び立つ大鷹のように、敵宇宙戦闘機から放たれたレーザー兵器をかわし、撃ち込んだバルカンやミサイルは、獲物に食らいつく獅子のように驀進する。


 まぁ全部、午後映画「インデペンデンス・デイ」の中での話なのだが。


 実際はドローン戦闘機で巨大UFOに総攻撃を仕掛けたそうな。

 そんなことを知る由もない俺は、映画が終わる頃になると、画面の上にニュース速報が流れる。

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