第3話 カオス

 5月から冷え込み、6月で凍るような寒さを感じ、7月になると異常気象で雪が降る。

 子供達は早くも外で雪の塊を転がし、雪だるまを作り凍った路面をスケートリンクのように滑っていた。

 夏に初雪なんてオツだと思うかもしれないが、生態系が崩れに崩れて、もはや緊急事態。


 一体全体、地球はどうなっちまったんだ?


 7月を過ぎると暖かくなり、人間の見えないところであるモノが活発化した。

 鳥インフルエンザが通常の100倍のスピードで変異を起こし、ワクチンの開発が全く追いついていない。

 日本も国民、経済共に壊滅的な被害を被ったが、3ヶ月もしたらこの騒ぎわ収まった。


 だが、それ以降、不思議な話が舞い込む。


 ネットや、どのニュースを見ても耳にするワードが出てきた。


『死者が蘇り市民を襲う』


 間近にいた投稿者が撮影した動画をネットにアップしていたが、それでも信じられない光景だ。


 それはまさに歩く死体――――ゾンビだ。


 その後WHOの調査で、突然変異した鳥インフルが原因だと公表される。


 取り分け、香港が一番被害が多いく、クドいように連日、香港の悲惨な状態が中国メディアの、積極的な映像提供で報じられた。


 ゾンビ鎮圧の為、ついに中国軍が介入して、暴徒と化した香港人ゾンビを武力により一層。

 ゾンビ騒動は幕を閉じた。


 他の国や報道機関は本当に香港での一件がゾンビだったのか、疑う声があったが中国政府は「ゾンビによる国家の危機を未然に防いだ」で押し通した。


 日本のメディアが競うようにこの事件を放送する中、テレ東は『中国、万里の長城への旅』というタイトルの旅番組を放送。


 さすがテレ東。

 真意がさだかではない報道には、踊らされないということなのかもしれない。


 しかし次なる災難は、ゾンビよりもより具体的かつ現実に問題として形をなした。


 テレ東の番組に飽きてきたので、別のチャンネルにシフトしていた。

 そんな他局で臨時ニュースが差し込まれる。


『臨時ニュースです。防衛省は正式に、巨大不明生物の出現を発表しました』


 え? 何? 巨乳不倫性欲?


 いかんいかん、実家での引きこもり生活が長くなり、欲求不満なせいか、耳にする言葉が卑猥に聞こえる。

 御大層な名前で行ってるけど、ようは怪獣だろ?


 バカバカしい。

 そんなのがいるわけないだろ?


 数日後――――――――家から人の気配が消えた。

 いや、もはや街全体から人の営みも猫の喧嘩も、鳥のさえずりさえ聞こえない。


 いつもなら母親メシつかいがをメシを貢ぎにくるのだが、今日に限ってもってこない。


 なんだ? 俺様は腹が減ってんだ。 

 早く持って来いってんだ。

 イラつきがピークに達してドアを蹴り2階の部屋から出ると、1階に降りてキッチンを除く。

 すると、テーブルには置き手紙と現金が寂しく取り残されいた。


『父と母は温泉旅行に行ってきます。当分、帰って来ません。5万を置いておくので好きに使ってください』


 現金は5万円。


 いやいや、なんと愚かな親なのだ。

 今どきニートが、5万円で数週間も、過ごせるわけなかろう?

 全く、子に理解が持てぬ親ほど愚かなモノはない。

 ていうか、温泉旅行と称して、ていよく逃げられたようだが、まぁ、よい。

 しばらくは悠々自適に家を1人で占領できる。

 俺様の粘り勝ちだな。


 それから数日が過ぎると、自衛隊が避難遅れの住民がいないか、訪問して回っていた。

 俺様のしろへ来てベルを鳴らすも、引きこもりとなった俺様は居留守を使い、連中をやり過ごしてやった。

 今の俺様は髪も髭も伸び放題、処刑前のイエス・キリストような風貌。

 こんなむさ苦しい恰好で人前に出たくはない。


 そうこうしているうちに、街では警報が鳴り響き、静かになった。


 その静寂に雷を落とすように、地響きが大地を揺らす。

 何事か? と、慌てて窓を開け遠くに目をやると、爆炎の中から指人形ように顔を出した怪獣が現れた。

 まるで人形劇のように動き回る怪獣が、街を破壊していく。


 嘘だ……嘘だ嘘だ!?

 こんなのありえない!

 現実じゃない‼

 これで、この世界は終わってしまうのか?


 俺様はふと気づき、リモコンのスイッチを入れて、テレビを付ける。

 公営も民法も中継で怪獣の被害を流していた。


 俺様は祈るように、7のボタンを押してテレ東に変える。

 すると――――テレビでは午後の映画『ジュラシックパーク』が放送されていた。

 はぁ~、いつも通りの放送だ……良かったぁ。


 テレ東が平常運転、もとい通常通り放送していれば安心だ。

 俺はことが過ぎ去るまで、パソコンでゲームを始める。

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