閃いた日 ⑦-3-1
「――神様」
「うぇ? あ、うむ、そうじゃよ? ……うぇっと? ぬし……何で泣いておるの?」
「あ、いやこれは」
「さてはぬし。我が身を食せたことに感動しておるのかぇ?」
「え? ……我が身……私が、あなたの身体を食べたと仰っているのでしょうか? 飲んだではなく?」
「飲んだ?」
「飲んだ」
「……ん??」
「あ、失礼しました。まだ飲んでおりませんでした」
「まだってなに? いや、まぁ最後は飲み込むわけじゃし、食うも飲むも同じようなモノか、些末な事よのぅ」
「いえ、まだ飲んではおりません」
「いやいや飲み込んだじゃろ。そこにおる保証人も共に、我が
そういって指さされたのは蜥蜴幼女。
神の指摘に私と蜥蜴幼女は互いに見合う。
「えぇと、私とコスギどのだけが食べた
「左様。竜神に連なる血を持つそちならば知っておろう?」
意味深にうなずく神、Mon de Gnomeシリーズ.05大地の巫女。自称神の「ククリ」様。どういうことだ蜥蜴幼女。事と次第によっては賽の河原罰ゲームの難易度をルナティックに引き上げなければならないが、と、私は幼女の目を睨む。
「雲雀さん?」
「え? いえ、何も知らないであります! ほ、ほんとうでありますよ!」
「…………」
「ホントに本当であります! 嘘じゃないでありますよコスギ殿!」
私に睨まれてぶんぶんと首を横に振る蜥蜴幼女。嫌疑をかけられたと知るや否や必死の形相での全否定。
表情だけで判断するに、蜥蜴幼女とは短い付き合いだが嘘は言ってない気がする。これがすべて仕組まれた狂言だという可能性もゼロではないが、考えてみればこの蜥蜴幼女の頭で
「なるほど。では――このように、彼女は何も知らなかったようですし、今回のお話は不幸な事故という事で大目に見ていただけるとありがたいのですが」
私は雲雀からドリンクサーバーに視線を移し申し訳なさそうな顔で軽く頭を下げる。
しかし頭を下げられたほうと言えば――。
「ぬし、面白いことを言うのう。人様のものを取っておいてなかったことにせよと申すか。人間の世界ではそんなことがまかり通るのかぇ? それに我が使用人となる条件をそれだけ満たしておいて、今更妾が見逃すはずもあるまい」
許すどころか追撃の構えを見せた。
場末のチンピラがごとくいやらしい笑みを浮かべ、その態度からは奪えるものはすべて奪うケツ毛まで毟らんとする気概が感じられる。全然神様してない。
これは難しい交渉になりそうだ。とりあえず相手の気を逆立てないよう話を合わせるべきか。そのうえでそこそこに譲歩し、実の分の金品を差し出しておかえりいただこう。そう私が即損切り前提で話を続けようとすると。
「ぬしよ。勘違いしておるようじゃから一つ言っておくがのぅ、我が実をぬしに託した前任者の紹介と竜神に連なる血の保証人、それにぬしの神性、どれ一つ欠けても妾の使用人にはなれぬのじゃぞ? つまりぬしはラッキーマンということじゃ」
「……ラッキーかどうかはさておき、実を託した前任者というのは……」
私はふと果実を貰った洞窟でのことを思い出す。ククリ氏が言っているのはもしかするとあの兎人のことだろうか。
――これはもしかして、ハメられたのか?
李雫の実をくれたアイツ。そう、いきなり李雫の実をくれたアイツ。
あぁこれは。善意と思って油断した。罠だと知らず受け取った。そう、ここはファンタジー世界。日本じゃない。だのに飴ちゃんくれるオバハンくらいに思ってしまっていた己の大ボケ加減。度し難い。致命的失敗。悔しい。私の平和ボケブレインが心から悔しい。私の心は腹が立ちすぎて千々に乱れた。ポーカーフェイスの元で。
「どうしたのじゃぬし。なんで顔を真っ赤にして固まっておるの? 名誉な事じゃよ? 神の身を食えるなどスーパーラッキーなんじゃぞ? うれしいのう?」
そう言い楽しそうに笑う自称神の電波人形。
だが私の内心は現在猛り狂っている最中でちょっと上手に愛想笑いができない。そもそもあれだ。私はそういうのが大嫌いなのだ。なんだその「お金無しで女子中生と話が出来て嬉しいね?」みたいな問いは。君らそれ「お前を俺のハーレムに加えてやろう喜ぶがいい」っておっさんに言われてるのと同じなのだけどドゥーユーアンダースタンド? 何で自分は良くておっさんはダメだって思えるのさ。今すぐ頭のおかしい発言だったって理解して詫びろよ。ネコと和解する前におっさんに土下座せよ。と言ってやりたいのを我慢し私は目を細める。
「ぬし。もしかして情緒不安定? 妾、ちょっとぬしが怖いんじゃけど」
「さて、私は不安定な情緒など持ち合わせているつもりはないのですが、ご不快なことがあったのならお詫びします」
「ぬしってば、思ってることと言ってることがわりとしっちゃかめっちゃかだねとか言われない? それともまだ後遺症が治っとらんの?」
「そういったことを言われたことはありませんが……あの、ちなみに後遺症、とは?」
「だってぬし、ここ来る前に壊れかけとったじゃろ? 妾の身を食べて持ち直したと思うておったが、相手は刻食いじゃし……大丈夫かぇ?」
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