閃いた日 ⑦-2-2
「あ、おかわりじゃ」
「え? あ、私もお願いするであります!」
差し出される二つの皿。
自分のカレーをワゴンに留置し、普通に二人のおかわりカレーを盛り付ける私。
それを終えると自分のカレー皿をもってラブドールの対面に着席。
味の感想を言い合う二人を眺めながら食事スタート。
「…………」
正直、私の頭は「なんだこれ」の一言で一杯だ。突っ込みを入れたいがどう突っ込めばいいのかわからなくてその間ずっとカレーを口に運んでは咀嚼を繰り返すマシーンのような挙動を繰り返すこと幾数回。
この気持ちをどう表したらいいのだろう。もはやいつ突っ込めばよいのかという次元の話ではない。まるで達人同士の演武中のような緊張感というか、少しでも流れに逆らったら怪我をするみたいな空気感。偏在する隣り合わせの灰と青春死の恐怖ならぬスベる恐怖。にもかかわらず表層にあるのはご飯をただただ美味しく食べている二人というほのぼのしい構図。これが俗にいうほっこりするという奴なのか。
――この蜥蜴娘は何で何事もなくご飯を食べているのだろう。
おかしいでしょうよどう考えても知らない人が家の中に入ってきたら普通誰何くらいするだろなんで一緒にしかもつられてご飯を食べているのだよ斬新か! とは私の苛立ちこもる寸感だがふと――もしかしたら蜥蜴幼女がラブドールに触れないのは私のせいかもしれないと――思い直す。私が嘘を吹き込んだから、加えて蜥蜴幼女には人形の見分けがつかないからこんなことになっているのではないかと。彼女がすべてのラブドールを私の正妻エウリュディケ認識している可能性は否定できない。
そういうことならば、蜥蜴幼女の反応はまぁぎりぎりセーフなのかもしれない。私の自業自得か。うんしょうがない、ギリわかる。
でも何が起こっているのかさっぱりな事実は動かない。
だってアレ、十中八九ラブドールだもの。
股間にオナホールを装備したドールの老舗オリエンス工業の最新型ダッチワイフにしか見えないもの。各パーツに貼られているタグシールから察するに、その筐体はメンテナンス用として送られてきていた予備パーツの寄せ集めと思われる。
――勝手に組まれた素体なのか?
知らない顔から公式人形でないことは確定的に明らか。しかし公式人形ではないものの各パーツは公式純正品のためOEM版くらいの扱いが妥当なのか。まぁ百歩譲ってその件は仮にそうだとして、だとしたらなんで駆動しているのだろう。私、スイッチ入れた記憶ないのだけど。え、あ、そういえばあの夢ってもしかしてまさかだとしたらこわいうそだろこわいホラーでしかない。などとあれこれ考えつつも私もカレーを食べ終える。
「ところであの……」
食事の終わりは演武の終わり。私は三人分のチャイを用意しそれぞれの前に置くタイミングで仕掛けた。
「ほぅ、この茶は初めて飲むが、あまいのう」
「カレーの後に合う飲み物であります! すごく美味しいでありますね!」
お茶の感想はいいんだよ。喜んでもらえてよかったけどでもそれどころじゃないんだよ。というセリフが脳裏に浮かぶも面倒くさいのでスルー。私は皆がお茶を飲み終わるのを見計らってから、慎重に切り出す。
「単刀直入にお尋ねしますが、あなたはいったい、どちら様で?」
その答えに蜥蜴幼女が「えっ?」と短く声を発する。
だよね。だよね。そういう反応になるよね。でも私の驚きはお前の比じゃないんだよ、このおちゃらけメスドラゴンが。冗談は存在だけにしろよ。
「おお、そういえばぬしの名前は何と申す?」
「……コスギと申しますが」
「ふむ。リュウジか。良い名じゃな」
「ッ?!」
息を呑んだ。身体が凍り付くとはこういう事か、と脳の冷静な部分が自分を客観視する。
「ふぇふぇふぇ。なぁに驚くことは無いぞリュウジよ。
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